見えない正体-14
俺たちゃ、最高のコンビだった。
「如月の百倍返し」とあだ名されるほど、徹底的に相手を叩き潰そうとする俺を宥めて、抑えんのが英次の役目。
思慮深く、イライラするくらい慎重で、いつまでも動こうとしねえ、英次のケツを引っぱたくのが俺の仕事だった。
まったく、俺たちゃいいコンビだったぜ。
「何かあったら、俺がカチ込んでやる。
だから、テメエは安心して銭稼げ。」
経済ヤクザじゃねえが、大学まで入ったことのある英次は、組のシノギをうまく回すことで、利ザヤを稼ぎ、組に莫大な利益をもたらしたことによって、金バッチになった。
何か揉め事が起こる度に、出張って、時には力でねじ伏せながら、ケツから英次をバックアップしつづけた俺も、同じ頃にオヤジから直杯を受けた。
組じゃ、一番若い舎弟だった。
それを、面白く思わなかった奴もいただろう。
あの三隅の野郎が、そうだ。
俺は、舎弟になって、すぐに自分の組を起こしたが、英次はそうじゃなかった。
「倖田組ぃ!?」
「ああ、そこの代紋を継げとさ」
倖田組の組長は、円組の中でも最長老の組長だった。
近々引退するって、話しは、俺たちの耳にも届いていた。
本来なら、よほどのことがねえ限り、組の代替わりは、直近のナンバー2である若頭に継承される。
そして、織笠のオヤジから杯を卸してもらって、直系の若衆になる。
世襲でもねえ限り、それが俺たちの渡世のしきたりだ。
倖田組の若頭は、長年、渡世人として組を仕切ってきた三隅。
だから、本当なら三隅が代を受け継ぐはずだった。
だが、織笠のオヤジは、敢えて、そうはしなかった。
その頃から、芽室たちとの確執が表面化し始めていた。
何かと、うちのシマに粉をかけて来やがっているのも承知していた。
オヤジは、三隅に不穏な動きがあるのを、いち早く察知してたんだろう。
それで、子飼いの中でも穏健派であり、最も信用できる英次に、白羽の矢を立てたわけだ。
「大丈夫かよ?」
「ああ、自信はねえが、まあ……オヤジもあそこまで言ってくださるんだ。
やるだけ、やってみるわ……。」
まったく、あの野郎はいつもそうだった。
ちったあ、景気のイイことでも言えばいいのに、いつも自信なさげに喋りやがる。
おかげで、こっちは毎度ヒヤヒヤさせられたぜ。
それでも、何とかしちまうのが英次のすげえところだった。
だからこそ、織笠のオヤジも英次を頼ったに違いねえ。
そして、オヤジの目は間違っちゃいなかった。
英次は、立派に倖田組を引き継いで、名実ともに円組の中でもナンバー2の組織に押し上げた。
あんな若けえ身空で、たいした奴だ。
だが、その若さを妬んだ野郎がいる。
そして、その野郎が……英次をハメやがったんだ……。