『始まり』-1
「アヤは俺のどこが好きなの?」
ベッドの中で、シュウが私の髪を撫でながら聞いてきた。
「うーん・・・どこって言われてもねぇ・・・」
「じゃあさ、俺のこといつから好きになったの?」
今度は上半身を起こして、楽しげに私の顔を覗き込む。
「さあね。ナイショ。 私、電車の時間まで寝るから。」
私が布団を頭からかぶると、シュウは隣で「ちぇっ」って言った。
シュウは私の布団をゆっくりはがした。
「アヤ、寝てないで・・・もぉ一回シよ?」
シュウと初めて会ったのは一ヶ月前。
学校の廊下だった。
向こうから歩いてきたシュウと目が合った。
その時の 衝動―
私の中で何かが目覚めたような―
シュウの目に引き込まれて、瞬きすらできなくて・・・
通り過ぎるまでの数秒間で、私は、恋に堕ちた。
シュウが今年入学してきた一年生だってコトを知ったのは、その後のこと。
先生たちに何気なく聞いたりして、クラスと名前を知った。
校内で見かける事もしばしばあった。
でも、あの日以来、目が合う事はなかった。
もぉ一度でいいから、シュウのあの目が見たかった。
あの瞳に私を映して欲しかった。
私はシュウの姿を、一年生の中から探し出しては目で追うようになった。
雨の日だった。
といっても、私は歩いて駅まで帰る途中で降られてしまって、髪から水が滴るほどに濡れていた。
友達は彼氏と帰って、今日に限って私一人。
すごく惨めで、恥ずかしい。
通り過ぎる人は、みんな私を見てる。
今さら走る気にもならなくて、俯いて歩いた。
「何やってんすか?」
反射的に顔を上げた。
そこには傘を差したシュウの姿。
びっくりした顔で・・・私を見てる・・・?
つい、振り返ってしまう。私ではない、誰かに言ったのかと思って。
ふゎ・・・
私の顔に当たっていた雨粒が途切れた。
シュウが私に傘を差しかけてくれていた。
私は― 言葉も出なくて、シュウの目を見つめた。
「そんな青白い顔して・・・風邪ひきますよ?」
シュウが私を見ている。
シュウの瞳に私が映っている。
私は― その目に引き込まれて、目が離せない。
「大丈夫?」
シュウに言われて我に返った。
「大丈夫。駅までだし。あと少しだから・・・」
こんなに見つめて、ヘンな女だと思われたかもしれない。
私は再び俯いた。
「うち、そこだから、とりあえず拭いて行ったら?タオル貸すから」
シュウは私の手を取って、引きずるように私を連れて行った。
シュウの家は駅から近いマンションだった。
私はパーカーとハーフパンツを借りて、温かいココアを飲んでいた。
シュウは、私の制服をハンガーに掛けて乾かしてくれてる。