コトリの覚悟-6
コトリが、あのDVDを観て、精神に何らかの影響を受け、倒れた一因になったのは、ほぼ間違いない。
女の子を知っていると口にした途端、コトリは倒れた。
コトリとの関係がシホにバレてないなら、シラを切り通すつもりだったが、すべてがシホに知られているとわかったあとでは、無理に隠す必要性を感じなかった。
むしろ、コトリよりもシホの方が、有意義な情報が得られるかもしれない。
そんな計算が、オレの中で働いた。
「実は、その中に映ってる女の子を、コトリは知ってるらしいんだ」
「えっ?」
「その、なんて言うか、そのDVDは、実はエロビデオなんだけど、その中に映ってる女の子を知ってるって、コトリは言ってから、倒れたんだ」
「えっ?どういう事?」
「オレの方が訊きたいくらいだよ」
「じゃあ、このDVDを観て、コトリは倒れたの?」
「おそらく……」
「どうして、そんなものを?」
「見せようと思って見せたわけじゃない。間違って、見てしまったんだ」
「女の子って?」
「コトリと、同じくらいの歳の女の子だ」
シホが、声を詰まらせた。
信じられないと言った表情だった。
「タカ君は、どうしてこんなモノを持ってるの?」
「オレの友達から手に入れた」
「こっちのファイルは?」
「それも同じだ」
「どうして、こんなモノが必要なの?」
「前に、キャンプでオレが言っていた先輩を覚えてる?」
お前が豹変した日だよ。
「あの……天文部の?」
「ああ、その天文部の先輩だ」
「その人が、どうかしたの?」
「今、シホが手にしているDVDと同じビデオに出てる」
「えっ!?」
シホが自分の手にするDVDに目を向けた。
「そのDVDじゃない。違うビデオだ」
「どうして?……」
シホの声が震えていた。
「オレにもわからない。そのDVDをくれた友達のところで初めて知って、オレも愕然としたよ」
「やっぱり、女の子もいるの?……」
「ああ」
「それで?……」
「できれば、彼女たちを助けてやりたい。どうやら、シホが今持ってるファイルにあるヤクザが、そのビデオを創ってるらしいってことまでは、わかった」
「ふたりを……助けに行くの?……」
「ああ、出来ればね。それで、シホにも頼みたいことがあるんだ」
「な、なに?……」
「コトリは、そのDVDの中の女の子を知ってると言ってた。だから、もしかしたらシホも見たことがあるんじゃないかと思って。それで、シホにも、そのビデオを観てもらって、女の子に見覚えがないかが確かめて欲しいんだ」
「タカ君は、このビデオを観たの?……」
「少しだけね。まだ、全部は観てないけど……」
「そう……」
「頼めるかな?」
「えっ?あ、ああ……いいわよ……」
「じゃあ、コトリが退院したら、オレの部屋で観てもらうよ。いい?」
「え、ええ……」
「じゃあ、返して……」
シホは、素直にDVDとファイルを返してくれた。
彼女にも、コトリが倒れた原因がわかったのは、多少なりともショックだったらしく、寝るまでの間、ずっと顔を青ざめさせていた。
少なくとも、オレは、そう思っていた。
だが、よくよく考えれば、この会話には不自然なところがある。
オレは、それに気づかなかった……。
シホと一緒に狭いベッドに寝た。
おいで、と言ったくせに、彼女はずっと背を向けたままだった。
それは、無言でオレを拒んでいるようにも思えた。
夜中にふっと目が覚めて、さびしげな泣き声を聞いた。
しかし、寝ぼけていたオレは、それが夢だったのか現実だったのか、朝になったら、よく覚えていなかった。