心の傷-8
「誰に電話するの?……。」
不意に、後ろから声をかけられた。
「シホ……。」
振り向くと、いつの間にか、シホが立っていた。
シホは、両腕を組んでじっとオレを見つめていた。
長い髪が、強い風に巻かれて、あどけない顔を隠すようになびいている。
「重丸さん?……。」
シホは、静かに近づいてきた。
なんでわかる?
エスパーかよ……。
それまで雲に隠れていた月が、にわかに顔を出した。
ゆっくりと暗い影が消えていき、月の光に、辺りがわずかに明るくなっていく。
蒼白な顔をしたシホの顔が、目の前に現れる。
月の明かりに照らされているせいか、やたらと青白く見えた。
垂れた前髪の奥でシホは、うっすらと笑っているようだった。
また、あの目だ……。
シホは、静かに手を伸ばすと、オレからケータイを、そっと取り上げた。
そのまま、もたれるように胸を併せて、首に腕を絡みつかせてくる。
「ねぇ……抱っこして……。」
首を抱え込んだ両腕に力を込め、シホは、はしたなく片足をあげて、オレによじ登ろうとした。
ぴっちりとしたタイトスカートは、腰の辺りまで捲れあがり、ストッキングの線までが、はっきりと露わになっていた。
「お願い……抱っこして……。」
触れるか触れないかまで唇を近づけて、濡れた声でささやく。
シホの望み通り、豊かな尻を手のひらに掴み、小柄な身体を持ち上げた。
シホは、細い足でオレの胴をきつく挟み込むと、甘えるようにしがみついてきた。
スカートは、すっかり捲れ上がって、豊かな双丘が露骨に丸出しになっている。
「はあぁぁあ……。」
喩えようもない愛しさを教えるかのように、切ないため息を耳元で吐いた。
「ねえ……タカ君……私たちのことは、重丸さんに言わないで……。」
シホは、赤い舌を伸ばして、オレの唇を舐めた。
「そして……私たちのことを、調べたりもしないで…………。」
なぜ?……
シホの尻が、淫らにうごめきだす。
まるで欲しがるように、密着させた股間を妖しく、くねらせる。
「もう、私たちは、あなたのものよ……全部、あなたのもの……それで、いいでしょう……昔のことなんか、もう忘れて……お願いだから、今の私たちを可愛がって……。」
わたし……たち?
「ほら……こんなに欲しがってるわ……あなたを、こんなに欲しがってる……。」
淫らにくねる股間の動きが大きくなっていく。
まるで淫売だ。
そのあどけない顔からは、想像も出来ないほど、淫らでだらしない娼婦だ。
しかし、身体は素直に反応していった。
ヤツも、シホを欲しがって、その存在を誇示するように膨れあがっていく。
だが、シホの次の言葉が、オレの心臓を凍りつかせた。
「あぁぁあ……そのうちコトリもこれを欲しがるようになるわ……あの子もたくさん、これを欲しがるようになる……。」
……!?
「コトリ……って」
思わず、しがみつくシホの身体を引きはがしていた。
シホは、首に腕を巻きつけたままで、しっかりと胴を挟んだ足を、離そうともしない。
信じられない思いだった。
なぜ、コトリの名前が今出てくる?
シホは、ねめるような目でオレを見上げていた。
瞳の中に怪しい光が浮いている。
オレを見上げながら、彼女は確かに笑っていた。
「コトリは、何でも私に話してくれるの。……どんな小さな事でも話してくれるのよ……だから、あなたがコトリに何をしようとしていたのかも知ってるわ……毎日、あの子に何をしていたのかもね……。」
まるで勝ち誇ったかのような笑みだった。
全部、知っていた?……。
じゃあ、なぜ?……。
なぜ、シホは黙って見過ごしていたんだ。
理解できない……。
まったく、理解なんか出来ない!
思考を妨げるように、また、シホがしがみついてきた。
オレの胸に甘えるように頬ずりを繰り返す。
「もう、私たちは、あなたのものよ……あなたのためなら、どんな事でもするわ……あなたにふたりで尽くすって、心から誓うわ……だから、もう私たちを調べるのはやめて……重丸さんには、何も言わないで!」
もう、何も耳に届いていなかった。
あまりのショックに、呆然と立ちつくすしか、出来なかった。
そんな、バカな……。
シホが、オレの身体を滑り落ちていく。
足下に跪いた。
ベルトを弛めていく。
冷たい指が触れ、暖かい粘膜に包まれても、オレは呆然と、立っているしか出来なかった……。