記憶-3
次に目覚めたときは、まだ床の上。
額にある、ひんやりとした冷たい感触。
辺りを見回すと、ついさっきまでと、まったく同じ光景。
違うのは、傍らでコトリが心配そうな目を向けていることだけ。
額に乗せられていたのは、家庭の常備品アイスノン。
「タカ、大丈夫?」
どのくらい寝てたんだ?
もう、あの女の子の姿はなかった。
あの子、アイツの妹だ。
あのニート君のマンションで、お小遣いをもらってた女の子。
なんで、オレの部屋に?……。
それに、どうしてオレを?……。
あっつぅ……。
ちきしょう……こめかみにカカトが入ったか……。
コトリだと思って油断した。
まさか、あんなに早く左を切り返してくるなんて思わなかった。
ナイスタイミング。
角度もばっちりだったわ。
ちゃんと、練習してんだね……。
って……。
ふざけんなよ!!お前ぇっ!!!!
有無を言わさず素っ裸にひん剥いて、それから1時間ほど虐めまくり。
問答無用。
ほんとに、やっちまうぞ……。
「エッチしようとしてたんじゃないの?」
「いきなり襲われたの!」
「タカが、襲ったんじゃなくて?」
ほんとに、ぶっ飛ばずよ、お前……。
ベッドの上。
まだ、ふたりとも裸のまま。
コトリは、ぐったりしたアイツを、手のひらに握って、弄んでる。
さっきまで口の中。
いっぱい虐められて、泣きながら口にしてた。
「あの人、知ってるの?」
「いいや。でも、知ってるのかな?」
「なにそれ?」
「顔は知ってる。でも、どんな子かは知らない。」
コトリが、大事そうに、チュッて、キスしてくれる。
さっき、ちゃんと飲んでくれたもんね。
小さな身体を持ち上げた。
ちょっと、重くなったかな。
まだ、身長測ってないね。
今度、道場で測ろうか?
包むように腕の中に入れてから、枕元のケータイに手を伸ばした。
「どこに電話するの?」
「あの子のお兄ちゃんのところ。」
着メロが流れ出すと、すぐにアイツが出た。
(タカ?……どうしたの?こんな時間に。)
そっか、お前に昼間電話するのって、滅多にないもんな。
「あのさ、お前の妹って、今、そっちにいる?」
(ううん。いないけど、どうして?)
「いや、ちょっと確かめたいことがあったから。」
コイツに確かめたいことは、ふたつある。
(もしかしてさ……妹のヤツ、タカのところに行った?)
あれ、知ってやがる。
「ああ、来たけど、なんでわかる?」
(いや、実はさ、昨日アイツがマンションに来て、ボクの顔を見るなり、誰にやられたんだって、すごかったんだよね。えらい剣幕で怒っちゃってさ。それで仕方なくてタカの住所を教えちゃったんだ)
教えんなよ……。
(で、タカのところに仕返しに行くって、きかなくてさ。包丁まで持ち出したから、必至に止めたんだけど……)
げっ!包丁だと!?
危なかった。さすがに刃物で寝込みを襲われたら、ケガくらいじゃ済まなかったかもしれない。
(ほんとに、大丈夫だった?)
「ああ、別に何ともないよ。相手は、女の子だからな。」
(そっか……良かった。ちょっと心配だったんだ。包丁は取り上げたんだけど、タカは空手の有段者だって教えたら、途中でナイフ買う、って言ってたから)
げろっ!ナイフだとぉ!!
(頑固なヤツだから言っても聞かないし、その時は、もう仕方ないかなって、諦めてたんだけど、ほんとに、何もなくて良かった……)
良かねえよ!!!
諦めてんじゃねえ!!
なんとしても阻止せんかい!!!
(ごめんね、タカ。妹を許してやって……。不良っぽく見えるけど、根はそんなに悪いヤツじゃないんだ。ただ、ウチはちょっと複雑な事情があって、アイツも居場所がないから、荒れてるだけなんだ……)
「なら、お前が面倒見てやれよ。」
床面積100平方mの豪華なマンション。
使ってるのは、ほぼコレクションルームだけ。
(うん……何度か一緒に住まないかって、言ったんだけどね……。)
「断られたのか?」
(うん。妊娠したくないから、嫌だって言われた。)
……………………。
だろうね…………。
「ところで、昨日、お前に頼んでた件だけど、何かわかったか?」
(ああ、サカイ先輩の……。だいぶ、わかったよ。今から、ウチに来れば?)
「そうだな……。」
コトリがいるから、あんまり行きたくないけど、いつ状況が劇的に変わるかわからない。
余裕のある今のうちに、情報を仕入れておく方が無難か……。
「じゃあ、これからこっちを出るわ。もうひとり、連れて行くから部屋ん中、掃除しとけよ。」
(えっ!?もうひとりって誰?)
「それは内緒」
(え?)
「お菓子とジュースもよろしく……じゃな。プチッ」
アイツ、コトリ見たら発狂するな……。