記憶-2
「誰だ!!!」
目を開けた途端、視野に飛び込んできたのは、振り下ろされようとしていたナックル。
寸でのところでかわして、とっさに腕を伸ばし、相手の襟を掴んだ。
力任せに引きづり倒し、入れ替わるように身をひるがえす。
素早く回り込んで、背後をとり、相手の喉に腕を差し込んだ。
「誰だ、お前?」
羽交い締めにしながら、腕で喉を締めつけた。
脳裏にあったのは、コトリを狙う正体不明の謎の男の顔。
だが、目の前にいたのは……。
えっ?女の子?
艶やかな黒髪。
鼻に飛び込んでくる甘い匂い。
ちょっとでも力を入れたら、すぐにでも折れてしまいそうな細い首。
思わず、腕の力を弛めていた。
「くっ……離せ、このヤロー!」
途端に暴れ出す小柄な身体。
えーと、あなた、誰ですか?……。
うわっ!そんなに暴れないで……。
どこかで、見たことがある。
誰だっけ?
「は、放せ!この馬鹿ヤロー!!」
地団駄を踏むように、足をバタバタ。
女の子は、逃れようと必至。
「ちょっと落ちつけって……。」
話なんか聞いちゃいない。
「放せ!ヘンタイ!!この、痴漢ヤロー!!」
あらま、大変な言われよう。
もう、しょうがねえな……。
手首を掴んで、身体を回し、床に押し倒した。
素早く腹の上に跨り、マウントポジションに。
「やめろ!!馬鹿ヤロー!!変なことしたら承知しねえぞ!!!」
乱暴されると思ったのか、女の子が、顔色を変える。
襲わねえって……。
「誰か!!……ウウゥッ!!……」
少し黙ってなさい……。
細い手首をまとめて片手で床に押さえつけ、もう片方の手で口をふさぐ。
女の子は、目を見開き、必死の形相であがきつづけている。
あんまり、うるさくすると、鼻もふさぐよ……。
口を覆った手のひらで、顔は上半分しかわからない。
でも、見覚えのある目元。
うっすらと化粧をした、幼さの残る顔。
どこかで見た。
それもつい最近。
どこだっけ?
オレの母校のセーラー服。
改造したスカートは、超短い。
暴れて、裾がめくれ上がり、大人びたパンティが、はっきりと露わになっている。
健康そうに素直に伸びた白い素足が、目にまぶしかった。
あら、いい眺め。
「誰だ、お前?」
顔を近づけ、凄みを効かせて睨みつけた。
汚らしいものを見たくないように、目を背ける。
お前、ほんとにイタズラするぞ。
気の強そうな顔。
瞳の中で燃えさかっているは、憎しみの炎。
あのね、中学生に恨まれる覚えは、ないんですけど……。
うん?中学生?
………………。
あっ!思い出した!!
お前は!
「タァァーカァー……。」
その時、背後から聞こえた、地獄の底から湧き出るような声。
あら?
恐る恐る、振り返った。
うわっ!こっちは、もっと、すごい炎が燃えさかってますけど……。
「違う!違う!これは……」
言い訳できないシチュエーション。
ちょっと待った!
カバン下ろすな!
構えんな!
おわっ!!!
右の回し蹴りを、かろうじてダッキング。
と、思ったら……。
ごすっ!
あら?……なんで左から……交差蹴りか?……いつの間にそんな高等技術を?
あ……教えたの……オレだ……。