過去のない女-9
――青森某所――
「なんだ、タン?その惚けたような間抜け面は?」
「いや、その……オジさんの仕込みが凄すぎて、ちょっと……。」
まあ、初めて見た奴は面食らうだろうな。
「そんなに、凄かったか……?」
オメエの顔見りゃ、どんだけ凄まじかったのかわかるよ。
「いやあ……ついこの間まで、俺たちが仕込んでた頃と全然違うんでさ。なんつうか、もう、いっぱしの淫売みてえになりやがって、あからさまに誘ったりしやがるんです……。」
「それも、糞まみれん中でだろ?」
「アニキ!見てたんですか!?」
「見てたわけじゃねえ、だが、わかる……。」
オレも初めて見たときは、面食らったからな。
あきれるくらい白い肌だった。
その白い肌が、糞にまみれて、のたうってたよ。
ガキとは思えねえほど、悩ましくて色っぽい身体だった。
ゾッとするほどの妖しい瞳に誘われるままに、跨ってたわ。
汚ねえとか、汚れるとか、そんなこたぁ微塵も思わなかった。
それどころか、ひどく神々しくさえ思えてならなかった。
まるで掃きだめに舞い降りた天使だ。
その天使を糞まみれになって、陵辱する昂奮に我を忘れたよ。
あれは、オジキから、この話を持ちかけられたときだったな。
半信半疑だったオレが、この話に乗ったのも、あの娘がいたからだ。
あれ以来、俺もすっかりガキに取り憑かれた。
いや……。
ツグミに取り憑かれたんだ……。
あの野郎、今頃、どこにいやがるのか……。
「オジキは?」
「まだ風呂です。あのガキを念入りに洗ってますよ。大事そうにね……。」
すっかりお気に入りかい?
まあ、ツグミに負けねえくらい、可愛い顔してやがるからな。
これでオジキもツグミを諦めてくれりゃいいんだが……。
まあ、無理だろうな……。
ツグミは、特別だ。
ツグミだけは、オジキにとって特別な存在なんだ……。