過去のない女-2
いい匂いがする……。
これは……味噌汁の匂いだ……。
豆腐の味噌汁だ……。
潮の香りが一緒に漂ってくる……。
お袋、ワカメは多めに入れろよ。
親父みたいには、なりたくないからな。
ハゲって、隔世遺伝だっけ?
なら、オレは、大丈夫か。
でも、オレの子供はどうなる?ハゲるのか?
女の子なら、どうなるんだろ?
どこからか、女の子の声が聞こえる……。
可愛い声だ……。
すごく……可愛い……声だ……。
「ママ!昨日、でっかい地震があったよ!」
「!!!!!」
「そう?地震なんかあった?」
見上げる先に、見慣れた蛍光灯があった。
しかし、サイズや形はまったく同じだが、縁取りの色が微妙に違う。
オレの部屋のは緑だが、目の前にあるのはピンクだ。
………………………。
やべっ!!!!!!
慌てて、布団から飛び出した。
おわっ!!
勢いあまって、転げ落ちた……。
どすんっ!
結構な音。
「なに?今の音?なんか、ママの部屋で音がしたよ。」
「あ、ああ……何かしら?何かが落ちたのかも?」
落ちました…………。
「あ、いいわ、いいわコトリ、ママが見に行くから……」
シホの焦ってる顔が目に浮かぶ。
そっと、引き戸が開けられる。
「ママ、どうしたの?何か、いるの?」
シホは、引き戸をわずかに開いて、恐る恐る、中を覗いてるらしい。
「どうしたの?」
コトリの足音が近づいてくる。
「ううん!なんでもない!なんでもなかった!」
ぴしゃり!と、引き戸が閉められた。
シホの寝室の中。
ベッドの影に息を殺して、伏せていた。
何時だ?
そっと、頭をもたげて、ベッドの枕元にある目覚まし時計に目をやると、時間は7時過ぎ。
まだ、そんな時間か……。
パンツも穿いていなかった。
生まれたまんまの姿。
(一緒に、住もう!……)
耳に残っているシホの声……。
そりゃ、願ってもないことさ!!
一緒に住んで、シホとコトリ、ふたりまとめて、あんなコトやこんなコト。
でも……。
まだその時期じゃない……。
コトリに、なんて説明する?
(お嫁さんにしてくれるんでしょ?)
日本の法律で、重婚は犯罪です。
アベ政権で、一夫多妻制にしてくんねえかな?
無理っぽいな……。
とにかく、今はまだ、シホとの関係をコトリに気づかれるのはマズイ。
それは、シホとて同じこと。
オレが、コトリの大のお気に入りなのは知っている。
今、関係が知れれば、コトリが傷つくのは必至。
要はタイミングの問題だ。
カミングアウトするには、まだ、早すぎる……。
………………。
取りあえずパンツ穿こ。
音を立てないように、ベッドの上をゴソゴソ。
あった。
うん?これは……?
シホのパンツだった。
あいつノーパンか?
しかし、それにしても……派手なパンツ。
はっきり言ってセクシーショーツ。
ピンク色のフリル付き模様入り。ラメっぽいのも所々に入ってる。
三十路前。
お前、自分の歳を……ま、顔が可愛いから、いいけどね。
股間の所は、まだぐっしょり。
夕べ、すごかったもんな……。