過去のない女-12
――シホの部屋――
「食器は、洗わなくていいから、流しの中に入れておいて。」
ええっと……これはなんですか?ウインナー?それとも墨?
焼きすぎて真っ黒やんけ……。
卵焼きなんか……いい……言わない……。
シホは、お化粧も終わって、お出かけするところ。
「ごめんなさい。部屋のスペアキーはないの。ひとつは、コトリが持ってっちゃってるから……。これを、置いておくから鍵を掛けたら、秘密の場所に隠しておいてくれる?」
「秘密の場所?」
シホが、鍵束から銀色の鍵を一つ外してテーブルの上に置く。
「電気メーターの裏側にちょっとした隙間があるの。よく見ないとわからないけど、部屋の鍵くらいなら挟める隙間があるのよ。」
そうなの?オレも気づかなかったわ。
シホは、玄関でヒールを履いていた。
「じゃあ、行ってきます!」
玄関で見送るオレに敬礼。
メチャクチャ可愛いんですけど……。
抱きしめたいのを、ぐっとこらえて見送った。
コツコツと、シホの足音が遠のいていく。
階段を降りるかなと思ったら、また、足音が戻ってきた。
うん?忘れもんか?
玄関が勢いよく開けられる。
声をかけるヒマもなかった。
飛び込むように、シホはオレに抱きついていた。
わけもわからぬままに唇が重ねられる。
「忘れもの……。」
ほんの少し頬を染め、照れたように見上げるシホのなんと可愛かったこと。
「じゃあ、行ってくるね……バイバイ。」
行かせるか!アホウ!!
1時間後……。
「す、すいません……昼から出勤します……。」
戻ってきた、お前が悪い……。