過去のない女-11
――青森某所――
「トリ……。」
「へい。」
「今、ショーバイの方は、どうなってる?」
やっと、仕事の話かよ。
「今んところ、うちで抱えてるガキは、オジキの腕ん中で寝てるソイツを含めて6人。内、3人が母親も一緒です。今朝、運んだ女は、今言った3人の内の一人ですわ。」
「相場は?」
「単品なら、一晩で10から15、親込みなら20から30ってところです。」
「客の数は?」
「オジキがいなくなってから、一時減りましたが、今はまた盛り返してきてます。」
「……てえと、だいたい300くらいか?」
「いや、まだそこまでは……ですが、やっぱり忘れられないらしくて、オジキがパクられたと知って、ビビって離れてった奴らも、少しずつ戻って来よりますわ。」
「つうと、月のアガリは?」
「だいたい1千強ぐらい.多いときは2千を超えます。」
「少ねえな……。」
「まあ、オジキがいなかったんで、あまり派手にもやりませんでしたから……。」
これが組のオヤジにばれたら、破門どころじゃ済まねえからな。
ヘタすりゃ、港に浮くぜ。
オレひとりじゃ、あのバカどもと一緒に、危ねえ橋なんか渡れねえよ。
アンタが帰ってくんのを、ずっと待ってたんだぜ。
「それじゃ、客から不満も出たろ。」
「ええ、まあ……でも、なかなか、うまい具合にガキも仕込めなかったんで、こりゃ仕方がありません。アシがつくことを考えれば、しょうがないことです。」
「しょうがねえか……。」
「え、ええ……。しかし、これからはオジキが居てくださるんで、また、昔みたいに……。」
「そうだな……。また昔みたいに派手にやるか……。取りあえず、客を戻すところから始めるか……。」
「はあ……あの、そうしたいのは山々なんですが……もう帳面はありませんし、それに……。」
「それに?」
「はあ、戻ってこない客ってのが、その……ほとんどが……。」
「ツグミか?」
「へい。いまだにツグミを指名する客が多くて、中にはツグミ以外なら、いらんという客までいる始末で……。」
「まあ、あれは特別だったからな……。」
「八方手分けして探しちゃいるんですが、どこへ隠れちまったもんだか、いまだに足取りが掴めませんで……。申し訳ありません!サツん中に鼻薬カマした奴がいますんで、今、そいつに足取りを追わせているところです。」
「おいおいトリ、お前、サツまで使って探してんのか?」
「へい。もうそこまでしませんと、どうにもアイツらの行方が掴めません……。」
「はは……だいぶ苦労してんな、お前も。」
誰のせいで苦労してると思ってんだ?
アンタが、ツグミに執着するから……。
「トリ……もうツグミは、探さんでいいぞ……。」
「えっ!?しかし……」
どういう風の吹き回しだ?
あれだけ、見つけろって、うるさかったくせに……。
「ツグミは、見つけたよ……。」
「えっ!?」
「ツグミなら、もう先に俺が見つけたよ。」
……………………。
どうやって…………?