旅の始まり-15
<PM1930 シホとコトリの部屋>
全部バレてやがる。
どれだけバケモノじみてるんだ、あのオッサン。
あらためて、あのオヤジの怖さにゾッとしたよ。
思いの外、シゲさんとの話に時間を食って、オレがシホの部屋を訪ねたときには、ふたりは、風呂に入っていた。
ほんとに一緒に入ったらしい。
「上がって、待ってて!」
玄関のチャイムを鳴らすと、玄関のすぐ横にある浴室の小窓から、シホの声が帰ってきた。
ドアノブを回すと、いきなり扉は開いた。
お前、鍵くらい掛けておけよ……マジで、さらわれるぞ……。
玄関を上がって、キッチンに目を向けたら、テーブルの上には、土鍋を置いたコンロがセットしてある。
えー……今は、夏です……。
中身は何かな、と、土鍋のふたを開けたら……。
うわっ!!!
こ、腰が抜けた………………。
ダシの中でタコがまるまる一匹泳いでた。
な、何つくるつもり?…………。
浴室から聞こえてくるのは、楽しそうに、はしゃぐふたりの声。
あんな声を聞いていると、あのふたりが拉致される危険があるなんて、現実のものとして実感できない。
いったい、こいつらには、どんな秘密があるっていうんだ……。
浴室のドアの開く音がして、まずコトリが出てきた。
脱衣所代わりの廊下のアコーディオンカーテンが開いて、いつもとは違う、長い髪を下ろしただけのコトリが顔を出す。
「タカぁー。」
胸のあたりにバスタオルを巻いただけ。
嬉しそうに走り寄ってきた。
お化粧は、しっかり取れたね。
でも、やっぱり素顔が一番可愛いや。
濡れた長い髪が、妙に色っぽい。
「着替えてくるから待っててね。」
自分の部屋に行こうとしたコトリの手を取って、腕の中に抱きしめた。
いい石けんの匂いがする。
唇を重ねた。
バスタオルの下に手を滑り込ませて、小さなお尻を撫でた。
「エッチ……。」
唇を離すと、悪戯っぽい顔で笑いながら、コトリが小さく囁く。
エッチな方が好きでしょ?
コトリが、部屋に入っていくと、入れ替わるように、すぐにシホが浴室から出てきた。
シホも胸のあたりにバスタオルを巻いているだけだ。
コトリと違うのは、頭にもタオルを巻いていた。
「ごめんなさい。パジャマ準備するの忘れてて……。」
はしたない格好を、恥ずかしがるように、シホがオレの前を通り過ぎようとする。
前をふさいで、シホも腕の中に絡めとった。
唇を重ねていくと、かすかに抗うような仕草を見せる。
コトリを気にしているらしい。
観念しろと、尻を強く掴んで、引き寄せた。
現金なアイツは、復活を誇示するように、頭をもたげてシホの腹を押していく。
コトリと同じ石けんの匂い。
コトリと違うのは、手のひらに伝わる豊かなボリューム感。
小柄だが、お尻だけは人並みに大きいシホ。
唇を離すと、すがるような目が向けられる。
「ご飯……すぐにつくるね……。」
シホは、恥ずかしそうに俯きながら、オレの腕を離れると、自分の部屋へと入っていった。
見た目は悪いが、タコの鍋は、意外にうまかった。
これこれコトリ、頭からかじるのはやめなさい。
ぶつ切りにしたタコの足をみんなで、かじりまくり。
喉に流し込むビールのメチャクチャうまいこと。
シホが、甲斐甲斐しくビールを注いでくれる。
コトリも負けじと張り合っていた。
みんなでキャアキャア言いながら鍋を突っついた。
この幸せを奪おうとするヤツは、たとえ、どんな理由があろうと許さない。
かならず、ぶっ殺す!
楽しそうに笑っているアイツらを眺めながら、オレは心の中で、固く誓っていた。