日焼けのあとに-4
ほとんどの荷物を積み終えて、後は、あのふたりを積み込めば、いつでも出発できる。
思いの外、早くに終わって、時間は、まだたっぷりとあった。
アイスクリームを買って、ふたりに差し入れに。
オレって、たぶん「貢ぐ君」タイプ。
何をされても、怒れない人……。
「はい♪」
アイスを差し出すと、コトリちゃんは、相変わらず怒った顔。
まだ、根に持ってるらしい。
「ありがとうは?」
武道家は、礼儀が大事。
「よきにはからえ。」
………………………………。
シホさん、コイツ、ぶっ飛ばしちゃっていいですか?
意味わかってんのか?
つまんないことばっかり覚えやがって……。
お前、お尻決定ね。泣いてもヤるからね。
シホさんは、素直に「ありがとう。」
笑うと、口元に小さなえくぼ。
うーん、やっぱり可愛い……。
しばらく、ふたりと並んで、ぼんやり海を眺めてた。
「そう言えばさ……。」
コトリちゃんに話しかけた。
「明後日って、なんの日か覚えてる?」
コトリは、目をパチクリさせながら、キョトンとしてる。
やっぱり、忘れてやがる……。
こんがりと小麦色に焼けた背中。
ほんと、いい色に焼けてるわ。
たぶん明後日あたりは、ヒリヒリがMAX状態に。
「へへっ。」
考えるだけで、おかしかった。
「なにぃ?」
いやらしい笑みに、コトリちゃんは不機嫌そうな顔。
「明後日って、なに?」
教えて欲しい?
「ああっ!!!」
シホさんが、先に気付いたみたい。
「明後日って……。」
顔色が変わる。
「なに?なに?」
それを見て、コトリちゃんもオドオドしだす。
へへっ!明後日はねぇ……。
コトリちゃんの目が大きく見開いた。
ようやく本人も思い出したらしかった。
シホとコトリのふたりが、同時に叫んだ。
「大社蔡!!!!」
やっと気付いたか、ボケっ!
俺たちの住んでる地域には、わりと有名な神社があって、毎年夏になると、大社蔡が行われる。
祭りそのものは、9月に入ってからだが、先陣を切って、まず空手、柔道、剣道、その3競技が奉納試合を執り行う。
奉納試合とはいえ、コレは近くにある総合体育館を1週間借り切って行われるデカイ大会だ。
県外からの参加者も集う。
コトリちゃんは、去年初めて、この大会に参加した。
女の子らしい小柄な体躯。
加えて初エントリー。
誰もコトリちゃんに注目なんかしていなかった。
オレ達の道場以外は。
ノーシードから勝ち上がって、あれよあれよという間に決勝戦。
相手は、頭ひとつ以上背の高い、大きな男の子。
県下でも将来を期待された有望な選手。
誰もが、彼の勝ちを信じて疑わなかった。
結果は……。
一番いい色のメダルをもらってコトリちゃんは、本当に嬉しそうだった。
オレも一番弟子の活躍が誇らしくてならなかった。
その大会が、またやってくる。
それが、明後日。
コトリちゃんは、事の重大さに気付いたらしい。
口を開いて放心状態。
お前、その身体に空手着、着るのか?
おまけにプロテクターにヘッドギア。
さぞかし身体は擦れて、痛いだろうねぇ。
へへっ、プロテクターは、がっちり締めてやるからな。
ほんとは、海水浴なんかに来てる場合じゃない。
去年、この小娘に負けた奴らは、今年こそ雪辱を晴らさんと、今頃きっと猛練習に励んでるはず。
「どうしよう…………。」
コトリちゃんが、立ち上がって、すがるようにオレのシャツを掴んでくる。
すっかり忘れてたろ?
忘れてたお前が悪い。
でも、いいんじゃない。
コトリちゃんは、まだ子供。
勝ちにこだわる必要なんかない。
館長も言っている。
「楽しけりゃ、いい。」
まさしくその通り。
根性や忍耐なんてものは、中学や高校に上がってから学べばいい。
今は、そんなもの必要なんかない。
だから、わかっていたけど海水浴に連れてきた。
それに……
ふたりの水着姿見たかったもん!
この時には、まだ気付いていなかった。
この大会が、オレに重大な決断をせまる転機になるなんて。
そう……アイツに、会うまでは……。
コトリ、どうでもいいけど、お前、おっぱい見えてるぞ。
ないから、いいか……。