〈被虐少女〉-4
『ヒヒッ…あのイベントで愛ちゃんが言ったコト覚えてる?「彼氏とか面倒臭い」って……オジサンも彼女とか面倒臭えって思うんだよなあ』
血走った目を丸く見開き、唇をキュッと閉めて頬を膨らませながら、オヤジはしつこく言葉を吐く。
逃げ場を失った愛の可哀想な姿が可笑しくて、含み笑いを堪えるので必死な様子がありありと見えた。
『[ヤリたい時にヤる]……なあ、愛ちゃんとオジサンって“価値観”が同じなんじゃねえか?似た者同士なんじゃねえか?フヒヒ!』
愛はグシャグシャな泣き顔のまま、俯いて首を左右に振った。
それは今のオヤジの言葉の否定でもあり、その寒気しかしない声を耳にしたくないという気持ちが、態度となって表れたのだ。
『相思相愛……“俺達”にピッタリな言葉じゃねえか?せっかくだからよ、愛ちゃんを俺の女にしてやるよ……いや違うな、彼氏と彼女の関係じゃねえから《ペット》か……ウヒッ!愛ちゃんを俺の可愛いペットにしてやるよ……』
「ッ……!?」
今、愛の鼓膜に伝わった単語は、世間一般に使われている物とは明らかに違う……それは人を人として扱わない極悪非道な意味を持つと愛でも解ったし、これによって、このオヤジの変態性は、極めて危険な領域にまで至っているのだと理解した……。
「そん…そんなの嫌…ッ…ヒックッ!嫌あぁぁぁッ!!」
『まだ叫ぶんだ?無駄だって……フヒヒッ…いくら「嫌」って叫んでもよお、俺は愛ちゃんをペットにしてやるんだからよぉ……オマンコにチンポをブチ込まれてよぉ、ヨダレ垂らしてヨガリ狂うペットにしてやるんだ……イヒッ!イッヒヒヒヒ!』
この“現実”の何もかも嫌になり、駄々を捏ねたように泣き叫ぶ愛の両肩を首謀者は背後から抱いて、下品に笑った。
もう元の世界には戻さない。
汗と体液と糞尿に塗れた退廃の世界の《獣》としてしか生かさない。
それが如何に理不尽な命令であろうとも、それを“是”として異論を認めはしない。
いや、認める理由がない。
愛は飼育される為に連れてこられた。
拉致を決行された瞬間から人権など無きに等しく、前園愛という人間ではなく、“愛”という名前の《愛玩動物》となったのだ。
決して愛が認めなくても飼い主は首謀者であり、絶対的な君主として崇めなければならない〈存在〉なのだ。
この空間に、理不尽など有り得ない。
飼い主の言葉こそが全てであり、飼われる立場にある愛(ペット)は、自らの感情など捨て去り認めねばならないのだ。