思い出の夜-1
第10話 〜〜「思い出の夜」〜〜
「……すごい……。」
ひっそりと、消え入るような細い声……。
長い睫毛が、潮風に揺れる。
大きな瞳が、じっと見上げていた。
目の前にある、あどけない顔。
シホは、薄く笑みを浮かべて、嬉しさを隠そうともしなかった。
真っ暗な闇の中に浮かぶ白い肌。
寄せては返す波の音だけが、やけに大きく耳に聞こえてならない。
ふっと、身体が溶けて、波の中に呑み込まれていく。
そんな錯覚を覚えた。
波の音だけしか聞こえない。
男も女も、子供も老人も、皆、眠っている。
そういう時間だった……。
シホが、嬉しげに見つめる。
「こんなに、すごいの……初めてよ……。」
無邪気な瞳の中にさ迷う、妖しげな光。
シホは、ずっと瞳を開けたまま、閉じようともしない。
「すごい……こんなに、長く続くなんて……。」
喘ぐように、大きく胸を息づかせる。
悦びに満ち足りた顔。
気の利いたセリフのひとつも、思い浮かばない……。
言うべきか迷った挙げ句、オレは、シホの耳元で囁いた。