爆弾娘-2
「股割りは、基本だからね。」
「はい。」
先月、入門してきた女の子。
体格の良い子で、力も強い。
期待の新人さんだが、意外と身体が堅くて、蹴りで苦労してる。
中段蹴りでつまずいて、彼女だけ柔軟の特別練習。
可動部分が少ないと怪我も増える。
コトリちゃんは、となりで前足上段蹴りの稽古。
練習してるときは、いたってまじめな顔。
ほぼ、足は垂直に真上にあがる。
最初から、そうだった。
とにかく身体が柔らかくて、小柄だが均整のとれた身体をしている。
演武が美しく見えるのは、この均整のとれた体格ゆえだろう。
館長なんか、コトリちゃんにベタ惚れ。
「絶対、モノにしなさい。」
この場合は、一人前にしろ、って意味。
三段のオレだが、ここでは主に小学生の面倒をみるのが仕事。
オレも、元々はこの道場の出身。
幼稚園から、今に至るまでずっとお世話になっている。
おかげで、館長からは絶大な信頼がある。
だから、コトリちゃんに悪戯してる、なんて知れたら、まず殺される……。
「ねぇ、タカ」
やっぱ、きたよ。
どうして、すぐに飽きるかね?
「タカってば!」
今は、こっちの練習中。
もう、ベテランさんなんだから、ひとりで練習できるでしょ?
言ったところで聞くわけもない。
聞かないのは、わかってるから言わない。
無視無視。
どすっ!
ケツに中段蹴りが、クリティカルヒット!
意外と効くんだコレが……。
「もう、ちょっと……待ってなさい……。」
いきなりケリを喰らっても、怒れないオレ。
たぶん、女房の尻に敷かれるタイプ。
コトリちゃん、これ見よがしに不満顔。
オレが相手してる子を睨んだりしてる。
これこれ、年上のお姉さんをガン見しちゃあかんよ。
「あの……後は、ひとりでやるからいいですよ。」
期待の新人さんは、6年生。
やっぱり、オトナやねぇ……。
てか、こんな小さな子にいきなりガン見されたら、そら、ひくわな。
コトリちゃんのオレ好きは、道場の中では知らない者がいないほど。
すでに、この新人さんも承知済み。
申し訳ないね。
決して、えこひいきしてるわけじゃない。
けれど、他の子の目にはどう映っているのやら……。
一度、館長に相談した。
「楽しけりゃ、ええ……。」
聞く耳なし。
あんたなぁ、ここの最高指導者だろ!
いくら、お気に入りだからって……。
館長曰わく、オレとコトリちゃんは身体の使い方が似てるんだそうだ。
身体の使い方が似てるってことは、それだけ的確なアドバイスができるってこと。
オレは、中学の時、全国に行って3位になった実績がある。
コトリちゃんにも、そうなってもらいたい、って館長の願望なんだろうが、しかし……。
コレが、全国に行くのかぁ?