黒い訪問者 シークレット-3
「ああ、なつみ?私だけど、何か大変忙しい方で今海外に行ってるみたいなんだ。だから紹介は無理かな」
「嘘でしょ?」
「本当よ」
「わかった。志津子は仕事と家庭を両立している私が気に入らないのよ。自分は働けなかったからね」
「そんなこと一度も思ったことないわ」
どうしよう。なつみに藤本のあの治療とは言えない行為を話すべきか。
「じゃ海外から帰るまで待つから、紹介して」
「実はその先生、正体が分からないの。医者じゃないかもしれないの」
「え?だって子供できたんでしょ?」
「うん。でも・・・その・・・治療というか・・・代理父のような」
「えええええ・・・・」
なつみは絶句した。
「旦那さんはそのこと知ってるの?」
「知らないわ。それでどうする?紹介してもしょうがないでしょ?」
「うん・・・。でも紹介して」
「いいの?」
「うん」
「旦那さんには言うの?」
「言わないよ。それにしても私の子と志津子の子が兄弟ってことになるのね?」
言われてみれば、そうだった。もし顔が似てしまったらどうしようと思った。
志津子が藤本に電話して事情を話すと
「わかりました。伺います」
すぐに承諾をしてくれた。
「それから・・・失礼ですけど藤本さんって本当に婦人科医ですか?」
「言わなきゃいけませんか?」
「そう言う訳でもないんだけど・・・」
「なら聞かないでください」
「聞いてはいけないんですか?」
「はい」
藤本が何者でも構わない。なつみに子供を授けてくれればそれでいい。志津子はそう思うようにした。
治療場所はなつみのマンションで夫が仕事でいない平日昼間を選んだ。志津子は約束の時間より早めに着いた。
「コートもらうわ」
「ありがとう」
志津子は玄関を入り奥の応接間に入った。バルコニーに出て外の風を浴びた。10階からの眺めはスカイツリーまで見えた。
「マンション羨ましいな」
「何言ってるの戸建てだっていいじゃない」
「でもうちは築古いのよ。夫が建てたわけじゃないから」
「何か飲む?」
「うん。じゃコーヒー」
二人はコーヒーを飲みながら藤本を待った。
「志津子は母乳出るの?」
「うん」
「私は無理かな。胸ないもんな」
そう言ってなつみ自分の胸を見つめた。なつみは志津子より美人だが胸がないのだ。そのとき玄関のベルが鳴った。
なつみは緊張していた。
「しっかり、なつみ」
「うん」
藤本が応接間に入ってきた。長い茶髪を後ろに束ね、真冬なのに日焼けしたような黒い顔。そして黒いスーツ姿だった。