Greenroom talk〜楽屋話-1
神父尊のオフィス。
テーブルを挟んで修平と夏輝、健太郎と春菜が向かい合っている。
「警察官ってさ、」神父尊が言った。「休日で家にいる時は、拳銃を持ってたりするもんなの?」
夏輝が顔を上げた。「拳銃は例外なく持ち出し禁止です。どうしてですか?」
「『修平の浮気現場を見て逆上した夏輝は、寝室の棚にある拳銃を手に取り、夫とその浮気相手に向かって引き金を引いた』なんてことになったりしないのかな、ってちょっと思ったんだよ」
「確かにあの場面の後は修羅場になるんでしょうね。普通だったら」健太郎がコーヒーを片手に言った。
「でも、」春菜が少しつまらなそうに言った。「ケンったら、夏輝と何度も浮気してる割には、ずっと真っ赤だったし、何か初々しくなかった?」
「いや、何度も浮気してるってのは設定であって、実際俺と夏輝が繋がるのはあれが初めてだったんだ。しかたないだろ」
「読者リクエストは、俺たち二組の夫婦交換だったんすか?」修平が赤い顔をして言った。
「修平くん、何で赤くなってるの?」神父尊が訊いた。
「だ、だって、俺、春菜とエッチするの、むちゃくちゃ緊張したんすから」
「そうなの?」
「そうっすよ。だって、相手は親友の妻っすよ? 俺、キスするのもものすごい勇気が必要だった」
「そうなんだー」春菜がにこにこしながら言った。「でも、天道くんのキスは、ちょっとワイルドでとっても素敵だったよ」
「今回は夫婦交換というより、」神父尊が言った。「寝取られをテーマにしてくれ、っていうリクエストだったんだ」
「つまり、」健太郎が言った。「パートナーが他の相手とセックスするのを目撃してしまう、っていうシチュエーションですか?」
「そう。目撃してショックを受けるだけでなく、その光景を見て興奮してしまう、という隠れた願望が露わになる話ってとこだね」
「ケンタは、イくのにえらく時間かかってたみてえだが」
健太郎は真剣な顔を修平に向けた。「修平、お、俺が夏輝とセックスするの見て、ど、どう思った?」
「どうって?」
「飛びかかって引っぺがしてやる、なんて思わなかったのか?」
「それを言うんなら、俺が春菜とやってる時、おまえはそんな風に思わなかったのかよ」
「ルナには申し訳ないけど、俺、修平がルナを抱いて、一緒に盛り上がってるの見て、なんか、すっごく興奮しちまった」
「そうなの?」春菜が訊いた。
「う、うん。ごめん、ルナ」
「なんで謝るの? ケン。いいんじゃない? そういうのも」春菜はにこにこして言った。
「ルナはどうだったんだ? 修平に抱かれて」
「私、かねがね天道くんに抱かれたら、きっと素敵だろうな、って思ってた。欲深女って思われるかもしれないけど、ケンとは違うタイプのかっこよさと、何て言うかやんちゃさがある気がして」
「やんちゃ?」修平が自分の鼻を指さして言った。「なんか、みんな俺のこと、そう言うんだけど……」
健太郎が横目で親友の顔を見ながら言った。「やんちゃだろ」
「実際どうだった? 春菜」夏輝が訊いた。
「うん。やんちゃだった」春菜は笑った。「私がケンのパートナーだからって、始めは意識してシャイな感じだったのに、身体が興奮してきたら、我慢できないみたいな顔で私を抱いたりキスしたりするんだもん。かわいい、って思ったよ」
「だよねー。ま、それが修平らしい素敵な所なんだけどね」夏輝が笑った。
「でも夏輝も今回ずいぶん緊張してたみたいだね」
「うん。そうなんだよ。修平に抱かれる時やこないだ龍くんと抱き合った時は、けっこう素の自分を出せて、思いっきり開放的に気持ち良くなれたけどさ、ケンちゃんに抱かれると、何だかすごく恥ずかしいっていうか、ドキドキするって言うか……」
「何で?」
「高校ん時、ちょっとだけケンちゃんを意識してたことがあってさ、この逞しくてセクシーな身体に抱かれたら、どんな感じなのかな、って思ってた」
「そ、そうなのか?」健太郎が赤くなって言った。
「うん。でも、修平とつき合い始めて、修平のことで頭がいっぱいになってからは、そんな気にならなかった」
「良かった……」健太郎がほっとため息をついた。
「何かさ、修平とはいずれカラダの関係になるかも、って思ってたけど、ケンちゃんとそういうことになるなんて、それ以来考えたこともなかったからね。だから実際ケンちゃんのハダカを目の前にしたら、あの時ケンちゃんを意識してた頃のことを思い出して、修平への申し訳なさも手伝って、なかなか積極的になれなかった、ってとこかな」
「ケンも夏輝と同じように思ってたの?」春菜が健太郎に目を向けた。
「うん。俺の場合、高校の時は実際夏輝のことが好きだったし、その時の気持ちも少し思い出したのは事実。でも、やっぱり修平に対する罪の意識が大きかったね。だからカラダは興奮してたのに、なかなかイけなかったんだ」