傍観-1
高校一年生。森川 玄(げん)。俺はクラスで全く女子と話さない。別に興味がないわけではない。ただ何となくそういうキャラクターなのだ。影が薄いといったほうが適当かもしれない。貧乏なくせに私立の高校に入学してしまったばかりにバイトにあけくれていた。
「またお前百点かよ!」
俺の唯一の親友の悠(ゆう)だ。
「ただのまぐれだよ。」
(まぁ滑り止めで受かったわけだしな。)
席に着く。
授業が早く終わったから自習になった。
することもないから携帯をいじっていた。
「ねぇ玄くん。数学教えて?」
頼んでいるとは思えないほど事務的な口調で頼まれた。別に悪い気はしない。
彼女は驚くほど肌が白かった。二重の大きな目に通った鼻筋、暗めの茶髪。しかしどこか地味な感じだった。隣にいるのに名前すら知らなかった。
「どこわかんねぇの?」
(おもえば高校入ってから初めて女子と話したな。)しばらく勉強を教えていた。
「そういえば名前なんてゆうんだっけ?」
「知んないの?今六月だよ?まぁいいけど。あたしは麻紀だよ。よろしく。」
「麻紀ね。わかった。よろしくね。」
授業が終わってもしばらく麻紀と話していた。
好きな音楽とか地元の学校のこととかうざい先生のこととか他愛もないこと。
「なんで玄君ってそんな頭いいの?」
何百回と言われたセリフ。
「俺より頭悪い奴もいい奴もいっぱいいんだろ。別に特別じゃねぇよ」
何百回と言ったセリフ。
「確かに。でもあたしよりは遥かに頭いいけどね。」嫌味っぽく言った。
「まぁここは滑り止めだからね。公立受かってたらそんなこと言われることなかったけどね。」
(無愛想な女だ)
その時授業が終わった。
放課後いつものように悠と話してた。
「お前が女子と話すなんて初めてだよな?もしかして芽生えちゃった(笑)?」
(さっきのみてたのか)
「え?いや、あの、別に……興味ないね。」
「わかりやすいねぇ(笑)」
「なにがだし(笑)」
「わかってるくせに!そんじゃまた明日ね」
「じゃあね。」
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夕方俺は道路添いのコンビニでレジを打ってた。
道路のむかい側にはボロアパートと寂れたホテルが見える。
そのとき中年の男と女子高校生が歩いてるのが見えた。
よくみればそれは麻紀だった。
学校より化粧が濃かった。麻紀は学校では見せたことがない笑顔で男と話していた。
中年の男は顔はにきびだらけで頭はバーコードで、スーツを着ていた。
ふたりはそのままホテルに入っていった。
玄は目を疑った。
そしてその時は何も考えられなかった。
次の日
「おはよ。」
朝から麻紀が話し掛けてきた。
「お、おぅ。」
その日はずっと麻紀と話していた。もちろん昨日のことは秘密だ。
何も知らない振りして他愛もない話を話してた。
「やっぱお前麻紀好きだろ?」
放課後悠が言った。
何を言えばいいかわからなかった。
「玄どうした?」
悠が心配そうに言う。
「あ、いや、なんでもない。ちょっとぼーっとしてた(笑)」
「なんだおまえ(笑)?じゃあまたあしたな。」
「じゃあな。」