ミヤコの願い-9
「ひえっ!」
その声に振り返ったマミとハルマは、ケイコの形相に驚いた。
「問題も問題も大問題なのよ。そのベッドの素チンか何だか知らないけど、それはここには無いの!だから、仮定の話はやめなさい!」
「えっ?」
ハルマは驚いた。β塑型は貴重な物質であるが、この最新鋭を誇る研究施設にも確か在庫が10cm3ほどあったはずだった。細く加工すれば、人が1人通れるくらいの輪っかを作ることが可能なくらいに。
「ケイコさん、大丈夫ですよ。β塑型なら…」
「うるさ――――い!無いったら無いの!部外者のハルマさんは口を出さないで!」
ハルマの声をケイコの罵声が掻き消した。
「どうしたんですか?ここの研究施…ううっ…」
釈然としないハルマが言葉をつなごうとした途端、マミの唇がハルマの口を塞いだ。
ケイコの声でマミはハッとしていた。そう、このまま実験が成功すればミヤコが【O−CLUB】を去ってしまうことに気付いたのだ。
ケイコと同様にマミはそれをよしとは思わなかった。自分が正式に【O−CLUB】に迎えられたときには、そのままミヤコにはカリスマとして君臨しつづけて貰いたかった。
だからミヤコには申し訳ないが、実験はいつまで経っても成功しないに限るのだ。それを理解したマミはハルマの口を手っ取り早く塞ぐことにした。
「むうううっ」
マミの柔らかな唇の感触に、ハルマは目を見開いて驚いた。マミの舌が唇を何度も割ろうとしているのがわかり、震える唇を開いてマミの行為を受け入れた。その瞬間マミの甘い唾液が口内に広がり、ハルマはその心地よい味わいに瞬時に虜になってしまった。
「マミちゃん、早く改良型のロータードローンが使いたいわ。部外者のハルマさんをここから連れ出して一緒に検証してくれるわね。今すぐよ」
「はい、ケイコおばあちゃん。ほら、ハルくん、いくわよ」
放心しているハルマをマミが急かした。
「ど、どこに行くんですか」
「どこって?もちろん、邪魔が入らずに2人っきりになれる場所に決まってるじゃない」
マミがハルマの手を引っ張った。
「ユ、ユウキさん!」
【O−CLUB】の幹部たちに対しては、肩書きを抜きにして名前を『さん』付けで呼ぶのが習わしだった。しかし、マミは【MANCO】隊員の部外者なので、ハルマはマミを一般的な姓で呼んでいた。マミはさっきからそれが気になっていた。
「いやよ!マミって呼んで」
「マ、マミさん、それって…」
「『さん』はイヤ!呼び捨てでいいよ。それか『ちゃん』づけで」