ミヤコの願い-4
ミヤコがブースから出ると、マミは肩を落として続くケイコの腕を取った。怪訝に振り向くその耳元に囁いた。
「ケイコおばあちゃん、ミヤコおばあちゃんの実験って成功するの?」
「詳しくわからないけど、前回の実験数値では、次元転移した空間が確実に発生したそうよ」
「それだと、よくあるタイムマシンに搭乗するタイプじゃなくて、タイムトンネルを使うみたいね」
理系に強いマミは、実際目にした器械と、ケイコの簡単な説明で大凡のことを理解した。
「問題は次元転移した空間をつなげるタイムホールの安定か…」
そのマミのつぶやきにハルマが答えた。
「大電力が安定供給ができるとしたら成功率が高くなりますよ」
「だから核融合システムなのね」
「そうみたいね。だからチーフスタッフは確実に成功するって自信を持ってるのよ」
「じゃあ、やっぱり成功なのね…」
マミの心の中は複雑に揺れ動いた。歴史的実験には成功して欲しいが、そうすると…
「しかし、どうして核融合システムを小型にする意味があるんでしょうか?ここでタイムホールを作るなら、ワザワザ小型にしなくてもいいのに」
ハルマの疑問にはケイコが答えた。
「タイムホールが距離の移動ができないんだって」
「あっ、そうか。だから行きたい過去の場所に、あらかじめ移動する必要があるんですね」
「でも、ここの施設って昔もそれほど人跡未踏ってわけでもないでしょ。過去に行ってから移動したらいいだけじゃないの?」
小型化したといっても、それ相応の準備が必要だ。それに秘匿性のことを考えれば、ここから過去に行ってから目的地に移動した方が労力は少ないとマミは感じた。
「今の技術で作れるタイムホールが人が通れる大きさじゃないそうよ。直径が15cmくらい」
「15cm?そんなに小さいと意味ないじゃない」
「考えようによれば意味があるのよ。大きさの限界を聞いたミヤコおばあちゃんはね、割りきったのよ。考えてみて、15cmあれば体を触れ合うことも、キスもできる。それこそセックスもできるのよ」
「そう言われれば…」
「だからミヤコおばあちゃんは、昔、実家があった場所に器械をセットして、空間をつなげて父親に呼び掛けるって言ってるの」
「凄い発想ね。時代を隔てたセックスかあ。オチンチンだけタイムトラベルね。凄まじいけど、なんだか素敵だと思う」
「そうでしょ。あたしもそう思うわ」
マミとケイコの思考は、やはり血のつながりがあって似通っていた。少しだけ一般常識のあるハルマが、2人の会話を聞いて苦笑いを浮かべていた。
3人がブースから出ると、実験施設は丁度その瞬間を迎えようとしていた。
「電力供給量、2.0ギガワットで固定」
「次元転移装置、数値正常、制御にも問題ありません」
「ミヤコさん、次元転移装置の準備が整いました。いつでも可能です。開始の号令をお願いします」
チーフスタッフのサクマが声を上げた。物事に動じない頼もしさを醸し出していたサクマだったが、興奮のためか少しその声が上ずっていて、それがこの場の緊張感を現していた。