兄の帰省-2
バラエティー豊かな具材がグツグツと煮込まれるおでん鍋。
「さぁーあたる君!遠慮しないでドンドン食べなっ!」
「はいっ!」
どうやら一条君のオバサンが夕飯におでんを作り、「あたる君も呼んだら?」と息子の彼に声を掛け、電話をしたそうで。
佐伯君は一条君と家族ぐるみで仲が良いそうで、小学生の頃からで、連休の日は良くお泊りもするそうで。
「凛ー、今日野球どうだったぁー?」
「負けたぁー。」
「そっかーじゃー今度俺が教えてやろうかー。」
「本当!?あたるお兄ちゃん!」
「あぁ!」
凛…と呼ばれるもじゃ毛にそばかすの一条君の小学5年生の弟。
「流石一条君、彼の為に自宅に誘ったのですね?」
「いんやぁー、おでんを食べたいだけだよぉー。」
またまた…。
「所でこのお姉ちゃんだぁーれぇー?」
「!?」
無邪気な声で、見た事のない顔に?マークを浮かべる凛君。
「わ、私はっ!」
オドオドとする私、だがそこで。
「柊若葉さん!蓮兄ちゃんの友達だよ!」
「佐伯…君。」
肩に触れ、グイとくっつ、頼もしいくらいにハキハキと私に代わり説明してくれる。
「ふーん、あんまり喋んないから怪しい奴かと思った。」
「こら凛!失礼でしょ!」
一条君のオバサンが台所から出てきて、彼を注意する。
「ちょっと人見知りな所があるんだ、でもとっても優しくて良い人だから。」
「!!」
凛君にそう穏やかに説明する彼、顔が…赤くなりそう。
「人見知り、と言うより行き成りこんな所に連れてくんだからそりゃ緊張するよ。」
「い、いえ!何も話さないなんて私ったら。」
「いや、お前の言う通りだ、御免な柊さん、君は何も悪くないから。」
「そんな…。」
ホント、彼は優しくて私を護ってくれる感じ…。
「君ら、付き合ってるのかい?」
「ちょっと!お父さん!」
お酒片手に軽く言い放つ一条君のお父さん。
楽しい筈の居間が彼の一言で凍り付く、凛君は状況が読み込めず何となく口を開けたままで一条君も何もフォロー出来ずにいる感じでオロオロするだけで…。
「はい!付き合ってますよ。」
「!!」
この凍り付いた空気に動じずスラッとそう言い放つ彼。
「ずっと前から交際をしています。俺の…自慢の彼女です!」
「佐伯…君。」
私の肩に彼の手が触れる。
「素敵…💛」
乙女のようにときめくオバサン。
「そ、そんな事よりさっ!豚まん…どうなったの!?結局コンビニで我慢したの?」
ようやくフォローに入れた一条君。
「食べてねーよそうしようと思ったけどお前がおでんご馳走してくれるって言うから。」
「おやまぁ図々しい。」
「お前程じゃねーよ。」
そうこう会話している内に鍋も中が空いてきて。
「あぁーあ、食いたかったなぁー、豚まん。」
「別にいいじゃん!コンビニでも。」
「何も分かってねーなぁ!あの豚まんは特別何だぞ!中にはチーズに甘タレ角煮もふんだんに入ってるんだぞ!」
中華まんの事となると熱くなる彼、お互い食欲旺盛なのか…。
「はぁーあ、もはや幻の味となってしまったのか…。」
豚まんは別腹なのでしょうか、それを聞いたオバサンがスタスタと台所へ向かう。
「販売車って何処かお洒落ですよねー。」
「嗚呼、豚まん…。」
「はーい、お待たせー♪」
「おおぅ!?」
オバサンの持つトレイの上にはほっくほくの豚まんが…。私が何となく中を割ると。
「あら?これは…。」
それは佐伯君が先ほど言っていた甘タレにチーズ角煮が入っていて。
「こっ、これって…。」
「お母さーん、いつの間に買ったの?」
「何言ってんのよ、昼間にネット注文したの誰よ。」
一条君、今朝の電話で彼の考えを察して…。
「この借りは絶対返してよ?」
「あぁサンキュー♪」
子供のようにがっつく彼、フフ嬉しそう…。
「さて、僕はおでんを、あだっ!」
「後はあたる君の分!友達をダシにしない!」
「何てこと言うんだコレは…。」
「残念でした…。あっははははははっ!♪」
幸せそうな彼の横顔。
私は、彼には…ずっとこうであって欲しい…。