歪曲-18
そこまでは覚えている。
そこからの記憶がない。
気がついたのは、チカの膝の上だった。
背中に毛布をかけられたチカが、膝の上に乗せたミナの頭を大事そうに撫でていた。
ミナの座っていたソファの上だった。
チカは、まだ裸だった。
「チカっ!チカっ!」
気がつくなり、ミナはすがるようにチカにしがみついた。
目の前の少女が生きていたことが、奇跡に思えてならなかった。
「大丈夫だよ……怖かった?」
ミナは返事をすることもできなかった。
チカにしがみついて、声を上げて泣くしかできなかった。
「大丈夫だよ。死んだりしないから」
チカは笑っていた。
ミナの頭を抱え込んで、愛しむように髪を撫でてくれる。
「ミナも、お兄ちゃんに同じ事をされるようになるんだよ……」
髪を撫でながら、悲しげな声でつぶやいた。
ミナは、返事をしなかった。
することができなかった。
しがみつくチカの温もりが愛しすぎて、ひたすらその温かさを感じていたかった。
「ねえ、ミナ……」
頬をとられて、顔を上向かされた。
チカは、微笑んでいた。
「あたしと一緒にいてくれる?」
ミナは、じっとチカの顔を見つめた。
チカの目の周りは、まだ、泣き腫らしたように赤くなっていた。
「ミナにずっと一緒にいて欲しいんだ……」
鷲掴みにされた髪は、寝癖のように乱れて、チカの可愛らしさを消してしまっている。
「ねえ、一緒に地獄に堕ちよう……」
チカは、笑っていた。
微笑みながら、山なりに緩ませる瞳には涙が滲んでいた。
見上げるミナの頬に、こぼれる涙が一粒、二粒と流れ落ちた。
返事はしなかった。
返事の代わりに、ミナは背中を反らせると、すがるように胸を合わせながら、チカに唇を重ねていった。