歪曲-16
杉崎が腕のなかに入れたチカを抱きしめる。
乱暴に髪を掻きむしり、思いを伝えるかのように背中に回した手のひらでチカの身体を撫で回す。
その手は、下へとおりると、あっさりとチカのキャミソールのすそをめくりあげて、下着の上からいやらしく尻を撫で回した。
遠慮のない触り方は、まるでミナに見せつけようとしているかのようだった。
ミナを見つめる杉崎の瞳に下卑た光が浮いていた。
杉崎は、チカの丸い尻をいやらしく撫で回しながら、じっとその目をミナに向けていた。
「愛情は大事だよ。チカが君になんといったのかはわからないが、僕は愛情を持ってチカを躾けている。ほかの似たような境遇にある方々もそうだ。みんな愛情を持ってお嬢さんたちを躾けていらっしゃる。ただ!……」
杉崎はそこで大きく息を吸い込んだ。
自分の弁舌に酔い痴れているような顔だった。
ミナは、杉崎が何をいっているのか半分も理解できなかった。
ただ、杉崎のいっていることよりも、チカのいっていることの方が正しいように思えた。
杉崎は、自分を弁護しているだけに過ぎない、そう思えた。
杉崎の手はチカのお尻をなで続けている。
熱弁も続いた。
「ただね、ミナちゃん。僕たちのしていることを理解されない方が多いんだ。
僕たちはこれほど愛情を持って娘たちを躾けているのに、それを理解してもらえない。
それは、とても不幸なことだよ。みんな苦労している。
特にお嬢さんを躾ける場所を探して苦労している。
だから、僕はそんな方々のために我が家を月に一度提供しているんだ。
今度、君のお兄さんも連れてくるといい。
君のお兄さんがどんな人物なのかはわからない。
本当は、そんな人には来てもらいたくないんだ。秘密というのは、大事だからね。
でも、チカのたっての頼みだから、今回だけ特例を認めよう。
もちろん、チカには我々を危険にさらした罰を与えなければならない。当然のことだろう?
そして、ミナちゃん、君には、罰を受けているチカの姿を見届ける責任がある。
当たり前だよね。君のせいで罰を受けるんだから」
杉崎は、同意を求めるような目をミナに向けていた。
怖すぎて、何を話せばいいのかもわからなかった。
ミナのせいでチカが罰を受けることになる。
そんなのはいやだった。
ミナをにらむ杉崎の目には有無をいわせない迫力がある。
涙がじわりと溢れ出し、それは、次から次へとこぼれだした。
今日だけで、何度泣いたか数え切れない。
「うっ……うっ……」
涙なんて出し尽くしてしまってもいいはずなのに、それでもミナの瞳からは涙が次々とあふれ出る。
「ミナ、怖がらなくていいよ……」
ミナの泣き声に気付いたチカが、杉崎の腕の中で振り返っていた。
気丈にもチカは微笑んでいた。
ミナを少しでも安心させようとしているのが、表情からわかる。
「おう、麗しい友情だね。ならば今夜は躾も少し厳しくしてあげよう。
二度と勝手な真似をしないようにお仕置きするから覚悟するんだぞ。
そしてミナちゃんは目を逸らしてはいけないよ。
もし、チカの仕置きから目を背ければ、チカの苦しみはずっと続くことになる。
友達ならば、そんな目には遭わせたくないだろう?」
杉崎は笑っていた。
ひどく意地悪そうな顔だった。
ミナは、自分に向けられる杉崎の眼差しをどこかでみたような気がした。
はっ、と思い出して、悲しくなった。
チカがミナに向けていた意地悪な目つきとおなじなのだ。
それは、ふたりが紛れもない親子であることをミナにわからせた。
杉崎がチカの肩を押した。
チカは、フラフラとよろけながら、リビングの奥にある引き戸の部屋へと歩いていった。
「君も来るんだよ」
杉崎に促された。
脚は震えていた。
痛いほどに心臓も鳴っていた。
でも、いかないわけにはいかなかった。
いかなければ、チカがひどい目に遭わされる。
ミナもフラフラとよろけるように引き戸の部屋へと向かった。