歪曲-14
「それじゃあ、夏休みが終わってから友達になったんだね」
3人でテーブルを囲んでいた。
杉崎は、ミナ達が作ったシチューを、おいしいと、しきりに褒めながら頬ばっている。
ミナの正面に杉崎が座り、チカは右隣に座っていた。
ふたりとも半分ほどを食べ終え、ミナの話に耳を傾けている。
2階から下りてきた杉崎は、青いダンガリーのシャツに家着用のスラックスに着替えていた。
すらりとした長身の杉崎は、ミナの目からしても素敵な男性にしか映らない。
「全然教えてくれないから、パパ、まったく知らなかったよ」
チカに向ける笑顔は、本当に嬉しそうだった。
笑うと白い歯が口元からこぼれる。
どこか、タケルに似ているような気がした。
「チカも教えてくれればよかったのに、そういうこと全然話してくれないから」
視線はチカに向けられていた。
「やだ、だってパパにいったら、すぐに悪戯するもん」
「そんなことしないよ」
屈託なく笑っているから、危うく聞き逃すところだった。
「でも、こんなかわいい子なら、お兄さんが欲しがっても無理はないよね」
杉崎が、まじまじとミナを眺めていた。
「え?」
唐突にいわれて驚いた。
「ミナ、大丈夫よ。全部話してあるから」
チカがこともなげにいう。
「ええっ!?」
きっと、さっき2階に上がったときに話したのだ。
「ど、どうして?……」
唇が震えて、涙がじわりと溢れ出してきた。
「大丈夫だよミナ。パパはミナには、何もしないから。その代わりね、ミナにお願いがあるんだ。」
「おねが……い?……」
ミナのつぶらな瞳からは、涙がポロポロと溢れ出していた。
知られてはならないことを知られてしまった。
しかもその相手は、年端もいかぬ自分の娘を淫虐な性交で陵辱するような変質者なのだ。
怖がらないはずがなかった。
「大丈夫だよミナ、心配することないって」
チカは、立ち上がると、震えるミナのとなりに立って、安心させるように手を握ってきた。
手を握ったまま、ミナを見上げるようにしゃがみ込み、真摯な眼差しを向けるとチカはいった。
「ねえ、訊いてミナ。本当にね、ミナくらいの身体で男のひとの相手をするって大変なことなの。
死んじゃうこともあるって、いったでしょ?わたしはね、ミナをそんな目に遭わせたくないの。
だからね、ミナ、あんたのお兄さんをうちへ連れてきて欲しいの。
もちろん、あんたも一緒に。
パパが色々と教えてくれるわ。
あんたが壊れないようにお兄さんを手伝ってあげるの」
諭すような、穏やかな口調だった。
ミナは、涙を浮かべた目で、じっとチカを見つめていた。
チカは、ミナを見上げながら、信じてといいたげに瞳で訴えていた。
「チカちゃんも……一緒なの?……」
泣きそうな声で訊ねた。
「うん」
チカは、ミナを安心させるように笑顔を見せながら肯いた。
チカの言葉に嘘はない。
そう思えた。
ミナの視線は、自然と杉崎へと向けられていた。
この男の前にタケルを連れてこいという。
ミナをチカとおなじ身体にするために、杉崎がタケルを教育するのだ。
その杉崎は、顔の前に手のひらを組みながら、じっとミナを見つめていた。
さっきまでの、にこやかな表情は消えていた。
暗い光を宿した瞳を向けた杉崎は、不気味なまでに静寂を保っていた。