波ノ上-3
稔
「祐希、何処行ってたんや?」
稔は大阪の建築会社の社長。年収は1000万円を超える。
「ああ、中学の同級生が来たから空港まで迎えに行ってきたよ」
「何処に泊まってんの?」
「GRGホテル。あそこは安くて朝食も付くからね」
「ああバイキングやな。なんでビーチクハウスに泊めへんの?
「お前がイタズラするからだろ」
「ええやんイタズラくらい」
「ダメなんだ」
「祐希らしくないやん?」
「彼女だけはゴメンな」
「同級生やったらもう45歳やろ?ええやん少しくらい。可愛いんか?」
「ああ、すっと好きだったよ」
「相手も結婚してんねやろ?」
「もちろん結婚して子供もいるよ」
「ほな堅いこと言わんでや、彼女かて羽伸ばしたがってるで」
「デートがしたいんだよ。青い海みてな。昔出来なかったからな」
「何をロマンチックな事言うとんねん、オメコやろオメコ」
「ははっオレ、こう見えてロマンチストなんよ。星見て涙流すよ」
「ここは沖縄やで。堅い事言わずやったらええやん」
「そりゃ男だし、好きだったからやりたいさ。けどさ、物にも順番はあるやろ?」
「まあ・・せやな。ところでオマエなんで大阪弁うつってんねん」
「お前とおったらうつるわ!」
「せやな。せめて顔だけでも見せてよ」
「ええよ、顔とオッパイだけな」
「オッパイもええんか?」
「服の上からな。大きいで。巨乳や」
「けち臭いのーこれだから関東人は嫌いや」
「いや、オレは秋田生まれや。35年東京に住んでおっただけ。夢追ってな」
稔は社長であったが、重度の交通事故に会い、沖縄で3年ほどリハビリしている。
「なんもかんも失ったよ。俺が悪かったからな。家族も財産もなんも無しや」
「ええやん、俺だって一人で沖縄に来てる。ギター1本持ってな。お互いゼロからスタートしたらええや
ん」
「せやな。やってしまった事はしゃあないもんな。またビーチの夏が来るで。波の上の夏は凄いで。水着はTバックやし、毎日女に誘われるで」
「東京の女の子は飢えてるからな。無茶苦茶可愛いのに7割は彼氏いないからな」
「嘘やろ?なんで?」
「男が草食系になってしまったからよ。インターネットが原因や。画面みてセンズリすりゃ済むから、女とデートするのが面相なんだと。金もないしな」
「ほんまか?ほんだらオレが東京行ったらモテモテか?」
「当たり前やん、オレミュージシャンやで。何人女いると思ってんねん」
「行こいこ。連れてってや」
「ああ、その前に身体治して借金返しちまってからな。その前にニューヨーク行くぞ。軽くグラミー賞取って来てやるよ」
「またオマエは大きく出たな」
「ブロンドは抱きたく無いのかい?」
「抱きたいな」
「稔。オレのマネージャーやってや。ギャラはカッチリ払うで」
こうして祐希と稔の絆は深まっていった。
祐希も東京と沖縄で詐欺にあってしまい、全く金が無かった。
音楽講師の仕事は決まっていたが、簡単に仕事が回って来る訳でもない。
路上で寝ていた祐希に食料を持ってきたり、酒を飲ませてくれたりしていた。
今思えば本当の友達は「稔」だけなのかもしれない。
本当に金が無くて困っている時に、俺に手を差し伸べたのは「稔」だけであった。
「祐希、今日は金が入ったからシュンシュンと国際通りに飲みに行こ」
「いいよ、本当に金無いけどいいの?」
「ええって。リカコも連れて行くで」
「そしたら、オレ、三線屋に用事があるから寄ってから合流するわ」
「オッケー。ほんだらまた連絡するわ」
祐希は稔と別れ、市場本通にある「なんでも三線店」に向かった。
三線店に行くとある女性に出会った。「みちこ」である。
みちこは六線という珍しい楽器を持っていて、祐希は興味津々だった。
「ねえ、この後飲みに行かない?友達と合流するんだ」
「いいわよ、今日は一人だし、空いてるから。明日はお母さんが来るんだけどね」
「オッケーじゃ牧志公設市場で合流しよう」
「じゃ着いたら連絡するね」
そう言って「みちこ」とは別れた。
国際通りドンキー前の交差点を入ると市場本通りがある。
大抵は国際通りで飲むのだけど、こちらはスペシャリスト。牧志公設市場の裏にある立ち飲み屋で待ち合わせ。
中でも屋台BAR「安あん」と「ええかげん」は3人のお気に入りだった。
この「安あん」のママがまた美人ママで、バツイチだが同級生と再婚し6人の子供がいる。
「沖縄では16歳で結婚しますよ。最近はそうでも無いですけどね」
「ママ、そしたら次オレの子産んでよ、セックスした後にパパとやれば分からないじゃんか」
「ダメですよ、パパに怒られちゃう」
「わからないって。じゃあキスしよキス」
「だ!め!で!す!」
「ママ硬いのう、オレ子供いないから1人くらいいいじゃない。オレとママの子だったら可愛いよ」
「全く祐希さんたらスケベなんだから」
「当たり前やん、ギタリストがスケベじゃなかったらただの音楽オタクや」
「ふふふ」
「ケツ触らせて、ケツ」
「だめ」
「じゃ胸」
「もっとダメ」
「そうかママは胸が性感帯なんだな、はははっ」
「全く祐希さんたら・・」
「はははっ」
しばらくして稔、シュンシュン、リカコと合流した。
「待ってたよ、ママがやらせてくれないんだよ」
「あっはっは」
「後でさ、三線弾く「みちこ」が来るから合流しようよ」
「ええな、飲も飲も」
一期一会。沖縄では日常茶飯事だった。