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そうこうしている内に、やがて仕事の面でも成功を収め、仕事をかけ持たなくても生活が成り立っていけるようになった頃、私達は一つの転機を迎えた。
亜衣子の名前が西条亜衣子から、望月亜衣子に変わったのである。
結婚については、駆け落ち当初からずっと考えていた。
ただ、西条氏と向き合うことにより、結婚をして新しい家庭を作ることの重みに気付かされたから、闇雲に籍を入れるよりも、何か一つでも西条氏に認めてもらえるような事を成し遂げてから、そう思っていた。
そんな折、仕事面で道が切り開けることになる。
建築工学の道は自分で閉ざしてしまったが、せめて建築業界に携わろうとアルバイトから入った会社で、正社員に登用してもらえたのだ。
さらに社宅にも入れると言うことで、家賃もあの安普請アパートよりも安い上に、間取りは広くなる、ということで、私は喜んでその話を受けた。
ただ、社宅に入れるのは、社員とその家族のみ。
籍を入れていない亜衣子は対象外だったのだ。
私達は結婚に対して迷いはなかったのだが、問題は西条氏がそれを許してくれるかどうか。
会社の社長に婚姻の証人になってもらうことは出来たのだけど、私も亜衣子も誰に証人になってもらいたいかは、言わずとも通じていた。
そう、やはり西条氏に認めてもらいたかったのだ。
とは言え、亜衣子の実家を訪ねるのは、勇気が要った。
同僚からスーツを借り、西条氏が好きだという日本酒を手土産に、いざ挨拶に伺った時のあの膝の震えは、今でもよく覚えている。
許すと言われてもいないのに、婚姻届を持って行ったりなんかして、非常識甚だしかったと、今の自分ならよくわかる。
最初は挨拶から始め、段階を経てから結婚のお願いをするのが筋であったのだが、いかんせん私には時間がなかった。
もちろん殴られるのを覚悟していたけれど、退くつもりは毛頭ない。
でも、やはり殴られるのは怖い……と、いろんな感情を胸にしながら大きな門をくぐったもんだった。