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いつの間にか朝食を食べ終えていた亜衣子は、私が食べ終えた後の食器に彼女のそれを重ねて、テーブルを片付け始めていた。
私の茶碗は、亜衣子のそれより大きいので、必然的に下に重ねられるのだが、それがなんとなく亜衣子をおぶっているようで、ふと笑みが溢れて来る。
私が重なった茶碗達をぼんやり見つめている間に、亜衣子は台拭きでサッとテーブルを綺麗に拭き、すぐさま急須に湯を注いでいた。
そんな手際のよさは、出会った頃はまるでなかったな、なんてクスクス笑いがこみ上げてくると、彼女もまた、つられたようにフフフと笑うのだった。
「お父さんに居場所が見つかってしまったのも、こんな寒い日だったかしら」
コポコポと、急須から私の赤べこ湯呑みに3杯目のお茶を注いでから、彼女もまた自分の湯呑み(こちらは美濃部焼きの湯呑みだ)に残りを注ぐと、再び向かいに腰を掛けた。
いつもなら、食事が終わるとすぐに洗い物を片付ける亜衣子が、こうして座るということは珍しい。
でも、なんとなく昔の話をしたいのだろうとわかったのは、彼女が穏やかに微笑んでいる表情に、若干照れが見え隠れしていたから。
気恥ずかしいのは私も一緒だったので、亜衣子の言葉に小さく頷いてお茶をゆっくり飲むだけだった。
熱いお茶が身体に染み渡り、リラックス……と言いたいけれど。
当時のことを話題にされるのは未だにきまりが悪い。
懐かしそうに目を細めて空を仰ぐ彼女とは対照的に、私はわざとらしく咳払いをする。
……というのも、私と亜衣子はみんなから祝福されて結ばれたわけではなかったからだ。
当時、私が大学2年生、亜衣子が高校3年生。
私のアルバイト先のコンビニに、亜衣子が客としてやって来たのをきっかけとして始まった交際は、亜衣子の親に徹底的に反対されていた。
電話も繋いでもらえず、門限は5時まで。私と会わせないために彼女の親は、徹底的に亜衣子を縛り付けた。
しかも、亜衣子が高校を卒業したら、カナダに留学させる話まで進めていたのである。
そんな絶望的な状況だったけど、亜衣子を失うことだけはどうしても考えられなくて、彼女もまた、同じ気持ちでいてくれた。
でも、このままでは完全に引き離されてしまう。
そして、悩みに悩み抜いた結果、私がとった行動が、駆け落ちだったのだ。