2-9
「わたし、誠一さんと一緒にいたから、こんなにも成長出来たんだって思ってる」
「亜衣子……」
「今まで何不自由なく育ててくれたことには、本当に本当に感謝しています。わたしが幸せに暮らしてこれたのは、お父さんが家族を大切に守ってくれたから、なんだよね。忙しいのに、家族を大事にしてくれるお父さんだから、わたしはとても幸せだった。
でも、わたしもお父さんが家族を愛してくれたように、誠一さんを愛してるの」
笑顔がふと真剣な顔になったかと思うと、亜衣子は再び膝を床について、土下座の姿勢を取ろうとした。
亜衣子……!!
彼女のその姿に、胸が痛くなる。
そして私も次の瞬間、私も西条氏の前に対峙して亜衣子と同じ姿勢を取るのだった。
「や、やめないか、そんな真似したって……!」
驚いた西条氏が、咄嗟にそう言うが、土下座をすることにもう迷いはなかった。
西条氏に交際を反対されていたことを言い訳にして、私はずっと逃げていたのだ。
本当に亜衣子を愛しているのなら、真正面から西条氏と向き合わなければいけなかったのに。
私が臆病だったから、亜衣子の家族も、そして亜衣子本人にも辛い思いをさせてしまった。
だけど、亜衣子が私を愛していると言ってくれたから、もう私は迷わない。
どれだけ反対されようとも、認めてもらえるまで私は何度でも西条氏に向き合おう。
小さく息を吸い込んでから、私は床に額をつける勢いで深々と頭を下げた。
「大切なお嬢さんを連れ出した非礼、心よりお詫び致します。ですが、亜衣子さんを愛している気持ちに嘘偽りはありません。亜衣子さんが隣にいてくれたから、私はここまで頑張ってこれました。
確かに、決して裕福な環境ではないけれど、私はもっともっと頑張って、必ず亜衣子さんを幸せにします。……ですから、どうかこれからの私を見ていてくれませんか!?」
嘘偽りのない、本当の気持ち。
大人になった今、あの時の自分を振り返れば、なんて向こう見ずな青臭い男だったんだろう、と気恥ずかしくはなるけれど。
向かいでニコニコしながらゆっくりお茶を啜る亜衣子をこっそり見れば、あの時の青臭さも間違ってはいなかったと思えるのだった。