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赤べこ湯呑みをテーブルに置いて、私はふと、周りをぐるりと見回す。
ローンを組んで手に入れた、私達家族の家。
決して広いとはいえないが、カウンターキッチンも、食卓も、リビングもある。
ガーデニングが好きな亜衣子のための庭だって、小さいながらもある。
今でこそ、こうして人並みの暮らしが出来るようになったが、ここまで至るまでの道は果てしなく長く思えた。
だけど、そんな私をずっと隣で支え続けてくれた亜衣子と、かけがえのない宝物の真緒。
私はこの二人がいてくれたから、頑張れたのだ。
それに、そんな私達を見守ってくれたのは、他でもない……。
当時の事を思っているのか、そっと目を閉じている彼女をこっそり窺う。
全体的に柔和な顔立ちな彼女だが、眼差しだけは強い意志を持ったように、真っ直ぐに澄んでいた。
そんな内に秘めた強さを現している瞳は、やはりあの人にどことなく似ていて、彼と対峙した時のことを思い浮かべるのは自然なことだった。
◇ ◇ ◇
当時の私達は、とにかくがむしゃらで。
私は寝る間も惜しんで働き続けたし、亜衣子だって青春真っ盛りな時期に、アルバイトをしながらも家事を一生懸命頑張ってくれた。
周囲の助けなどまるでない私に、亜衣子を守らなくてはいけないプレッシャーは相当なものだったけど、彼女もまた私を守ろうと頑張っていたのだろう。
だから、家に帰った時に「おかえり」と、彼女が笑顔で迎えてくれるたびに、“明日も頑張ろう”と、思えるのだった。
それでも若い私達には、最大の壁があった。
そう、亜衣子の親である。
いくら駆け落ちをして、新しい生活を始めたと言っても、駆け落ちをされた側にしてみれば、はいそうですかと納得できるわけがない。
大切な娘をいきなりかっさらわれた亜衣子の父親ーー西条氏は、財力と持てるネットワークを全て駆使して、私達の居所を突き止めたのであった。
駆け落ちして、実に半年後のことであった。