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彼女の親が、私との交際を頑として認めなかったのは、私の身の上が原因だった。
高校生の時に両親を事故で亡くして、天涯孤独となった私は、地元の総合病院の院長の娘の相手にはふさわしくなかったのだ。
それでも、真っ当に生きていると自負はしていた。
微細ながらも親が遺してくれたお金で大学に通い、建築工学へ進む道を目指していた私は、遊び歩くこともなく、ひたすら勉強と生活費を稼ぐためのアルバイトに励む生活。
それだけに、交際に反対された時は自分の存在はおろか、親のことまで否定されたような気がして、亜衣子の親に対しては憎い気持ちだけが湧くだけだった。
だから、駆け落ちをした当初は、“あいつから一番大事なものを奪ってやった”という達成感でいっぱいだったのだ。
それに、愛する人がいつも隣にいてくれる。
これ以上の幸せはない、と思っていた。
だが、それでハッピーエンドってわけにはいかない。
生きるためには、お金が必要なのだ。
今までのアルバイトだけでは到底二人で生きていくことなどできるはずがない。
だから、まず、大学を辞めた。
夢であった建築工学への道を断念することに、いささかの迷いはあったけど、亜衣子のことを考えると答えは自ずと出てきた。
亜衣子と人生を共にするのも私の夢になっていたからである。
次に、引っ越しをした。
駆け落ちした当初は亜衣子が私のアパートにやってくる形になったのだが、そこに住み続けていたら、あっという間に亜衣子の親に居場所を突き止められてしまう。
だから少しでも足がつかないよう、何のゆかりもない地の、六畳一間のオンボロアパートに越した。
すきま風が吹き、ゴキブリなんかもしょっちゅう出る、しかも風呂なしトイレは共通という、今では考えられないほどの物件。
お嬢様育ちの亜衣子には、この暮らしはさぞかしキツかったであろう。
だが、社会にまともに出ていない私達には、とにかく出費を最小限に抑えなくてはならなく、そこで生活を始めるのは致し方なかったのだ。