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幸せの連鎖
【家族 その他小説】

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1-1

「お父さん、いつなら都合がいいのよ」


ナチュラルに整えられた眉をしかめ、真緒(まお)は私を睨めつけた。


「ああ、後で確認しておくから、もう少し待ってくれ」


「いつもそう言って、都合悪いって言ってばかりじゃない」


「仕方ないだろ、今は繁忙期だし、土日出勤をしないと追いつかない程なんだ」


そして私はチラリと自分の紺色のスラックスに目を落とす。後はジャケットスーツを羽織れば立派な企業戦士の出来上がりだ。


今日はデートでもしてくるのだろうか、堅苦しいワイシャツにネクタイ姿の私とは対象的な、ニットのワンピースに身を包んだ真緒。


母親譲りの優しい顔立ちにそれはよく映えているけれど、当の本人はムスッと不機嫌そうである。


「もう、すぐ仕事仕事って。前はこんなに土日出勤なんてなかったじゃない」


途端に身体が強張る。全く、女って奴は見てないようで見てるものなのか。


「は、繁忙期なんだ」


上ずった声をごまかすように、テーブルの隅に置いていた新聞を広げた私は、娘との間に仕切りを作って逃げた。


仕事なんて嘘って言うのがバレているのだろうか。


反射的に身体が強張り、息を潜めてしまう。


すると、新聞の向こうから、フウ、と大きなため息が聞こえて来た。


「……彰彦(あきひこ)もお父さんに挨拶するって張り切っているんだから、いつまでも逃げ回るのは止めてよね」


ため息混じりの捨て台詞には、呆れと苛立ちが明らかに感じ取れる。


結局真緒は、それ以上を私に言及することなく、「ごちそうさま」とだけ呟くと、流しに食器を下げてリビングを出て行ったのであった。


新聞で真緒の顔が見えていないのに思わず肩を竦めてしまう。


最近の朝食の光景といったら、めっきりこのパターンになっていた。




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