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娘命、というのは、娘を持つ父親なら当然である、と思っている。
そんな私ももう51歳。周りには娘が嫁にいったという同志もだんだん増えてきた。
私はそんな同士達に、娘を嫁に出した時の心境を訊ねたことがある。
手塩にかけて育てた娘を、どこの馬の骨ともわからない男に取られるのは、身を切られるように辛いのではないか。
そう訊ねるのは、まるで集団で予防接種を受けた際に、先に注射を終えた人に「痛かったか」と訊ねる心理に似ているかもしれない。
そこで「痛かった」と答えが返ってくれば、さらに注射に対して恐怖心は大きくなるのに、なぜかホッとしてしまう。
きっと、辛い気持ちを分かち合いたいという思いが底にあるのだろう。
だから私は「娘を嫁に出すのは辛くないのか」と、同士達に訊ねるのかもしれない。
辛い気持ちを共有したいが為に。
しかし私の予想に反して、大概が「嫁に出して肩の荷が降りた」と口を揃えて言ってきたのである。
私は今でも、彼らのそんな発言が信じられないでいた。
嫁に出してホッとするなんて、まるで娘を厄介払いしているようで、寂しいのを虚勢を張ってごまかしているのだ、そう思っていたからだ。
真緒が嫁に行ったら、私もホッとするのだろうか?
咄嗟に純白のウェディングドレスに身を包んだ真緒の姿を想像してしまい、慌てて頭を振る。
いや、ホッとするわけがない。
真緒が嫁に行ったら、私は寂しさのあまりに死んでしまうと断言できる。
そして私は決意を新たに口をキュッと真一文字に結ぶ。
だから、真緒の彼氏なんかには会うわけにはいかないのだ。
「……お父さんも、今のあなたみたいな気持ちだったのかしら」
ポツリと呟いた亜衣子は、私を見ては目を細めて笑っている。
そんな彼女の微笑みが、まるで子供を見守る母親のようで、自然と顔が赤くなると共に、あの時の光景が蘇って、反射的に身体がブルッと震えるのであった。