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「はい、どうぞ」
熱々のほうじ茶が注がれた湯呑みが目の前にトンと置かれ、私はそれをじっと見つめた。
福島県会津地方の名物の赤べこを、小さな女の子が好みそうな可愛らしいキャラクターにデフォルメし、プリントした湯呑みは、50歳を過ぎた親父が使用するには、どうにも不釣り合いだ。
でも、私はこれがすごく気に入っている。
何せ、真緒が小学校の修学旅行で私に買ってきてくれたお土産だからだ。
28歳になった真緒からは、「そんな安物捨てなよ」とバカにされているけれど、捨てるつもりなど毛頭ない。
というか、真緒からのプレゼントは何一つ捨てていないのだ。
真緒が大人になってからくれたプレゼントは、ネクタイやセーター、電動ひげそりなど実用的なものが多いから、こちらは普段から愛用しているのだが、彼女が幼稚園の頃にくれた似顔絵や手紙などは、大切にとってある。
プレゼントをくれた本人ですら、「いい加減そんなもの処分して」と目くじら立てて怒ることもあったけど、これらは全てわたしの宝物、どうこう言われる筋合いはないのである。
赤べこ湯呑みでお茶をすする私を、亜衣子がジッと見つめていたことに気付いて、怪訝そうに彼女を見返すと、
「あなたはとにかく真緒命ですものね。彼氏に取られるのが相当悔しいんでしょう」
と、小さく笑うだけだった。