今夜、七星で Yuusuke’s Time完結-6
「椿さ、」
「もう、疲れた」
椿さんの声は、冷たかった。怒りを通り越し、冷えきった感情が伝わってくる。
「君とは結局、合わなかったのよ。価値観も、考え方も、何もかも。」
吐き捨てる言葉が、冷えた身体に突き刺さる。否定したい、が否定する力もない。だって俺も初めからそう思っていたから。
「自由に生きるゆーすけ君が、本当に羨ましかったわ。やりたいことだけやって、好きなことに熱中して。誰かと競うことも、責任とか重圧とか、嫌でも、正しくないと解ってても従わなくちゃいけないとか、そんなの考えたこともないでしょ?」
ふう、と息を吐いて疲れた顔で視線を寄越す。
言い返せねーよ。ホントの事過ぎてぐうの音も出ない。
「違いすぎるんだよね。私と。だから、だから……もう、……二度と会わないようにお別れ、しよう」
語尾が震えていた。瞳が揺れていて、嘘をついているのを感じた。
「……嘘、ついてる。違うっつーのなんてお互い初めから解ってたことだろ?椿さんは俺に会いたくて、今ここに居るんだろ。会いたくなかったら、今日だって明日だって来週だって、ずっと来なきゃよかったんだから」
息が、詰まる。一息に言い切った後の気不味い沈黙。
椿さん、なあ……。
椿さん、俺……。
椿さんの事、結構……。
「ゆーすけ、く、ん……」
気付いたら、椿さんを胸に押し込めていた。
ぎゅっと、抱き締めて、逃げないように。
だって、放したくないんだよ。
離れたくないんだよ。
「もう、黙って」
耳に唇を寄せて低く囁いた。
そのまま冷たくなった耳を口に含む。あ、と小さく椿さんは鳴いた。
思う存分軟骨に舌を這わせ、口を離したときは銀糸が光っていた。
「椿さん、俺のこと好きだろ?」
頭悪い俺だけど、鈍くはないと思う。
ここまで来た、さっきの女や樹里さんに対して過剰に反応した、そして気持ちの端までを全部ぶつけてくる。
怒り、憎しみ、嫉妬、哀しみ。いちいち俺の腹ん中を突き刺して、傷ませて混乱させるけどーーだからこそーー嘘なんてない、ありのままの姿で。
好きじゃなかったら、好意がなかったら、絶対にそんなことまでしないと思う。
俺は、、俺だったら、絶対やらない。
好きじゃなかったら、他人のために行動を起こすなんて馬鹿らしいと思う。