斜陽-1
1
赤い西日が差し込んでいる。
刺すような光が部屋の中に届いていた。
まぶしすぎるほどの夕日を背に受けて少女は立っていた。
まだ、あどけなさの残る幼い少女だった。
起伏のない体は棒のように細い。
ほっそりとした手足は、手折ればすぐにでも折れてしまいそうな頼りなさに満ちていた。
幼女と呼ぶに相応しい年齢だが、幼い顔立ちの中に不思議と蠱惑的な美しさがあった。
ぷっくらとした唇に利発さを思わせる広めのおでこ、長い睫毛に縁取られた大きな瞳は、彼女の将来が明るいことを予感させる。
まだ、10年と生きていない。
子どもらしいほどに子どもだが、彼女の大きな瞳に魅了されて心を動かされる者は多かった。
そのつぶらな瞳も、今は涙ににじんで翳っている。
口惜しげに唇を噛んでいた。
小さな手のひらにスカートのすそを握りしめ、自分から下着をあらわにするようにめくっていた。
少女の前に男がしゃがんでいる。
膝をついて、スカートの中に頭を潜らせていた。
厚い生地の上から、生温かい息を吐きつけられていた。
鼻がめり込むほどに顔を強く押しつけている。
荒い息づかいが少女の耳にも届いた。
耳を塞ぎたかった。
ズボンの前を開いて、そこから飛び出す醜悪な肉塊を自身の手で一心不乱にしごく男の姿は、無様というよりも滑稽に近かった。
股間に吹きかけられる息の熱さが男の昂奮を如実に表現している。
脚はほっそりと長いが起伏のない体は、彼女がまだ子どもの域を出ていないことを雄弁に物語っていた。
胸もふくらんでいなければお尻だって小さい。
男が夢中になって匂いを嗅いでいる股間は、性毛の生える兆しさえない。
そんな女の子に、男は剥き出しの欲望をぶつけている。
男が尻を抱えて引き寄せた。
尻の肉を鷲掴みにされ、めり込むほどに顔が強く押しつけられた。
少女は辛そうに眉根を寄せた。
耳に届く呻き声が大きくなり、いたたまれずに両手につかんだスカートのすそをぎゅっと握りしめた。
羞恥と恐怖、それに混じって胸を引き裂くような絶望感。
立っているしかできない自分が悲しくても何もできない。
やがて、男の動きがやんだ。
安堵したように大きく息を吐き、脱力していくのがわかる。
スカートの中から顔を出した。
「気持ちよかったか?」
何事もなかったかのような顔だった。
汚れた先を自分で始末しながら、そそくさと萎れていく肉塊をしまっていく。
その表情は本当になにもなかったかのように他愛ない。
少女は引きつった笑みを浮かべた。
「う、うん・・。」
声がうわずった。
「明日もしてやるからな。」
「う・・ん・・・。」
絶望的の言葉をかけられても少女は反論することもできない。
階下からは、ときおり母の足音が聞こえていた。
助けを求めようと思えば、それはすぐに実行できるはずだった。
だが、できなかった。
少女は眼下にある男の髪をなでた。
自然と手が伸びていた。
この男を知りすぎるほどに知っていた。
ついこのあいだまでは、心の底から慕ってもいた。
「ほら、もういいぞ。」
気をよくしたのか、何食わぬ顔で男が笑いかける。
ポンポンと尻を叩かれた。
まるで用済みといわんばかりの態度がいっそう悲しさを募らせた。
明日は母親の帰宅が遅くなる。
隔日で週に3日のパートに出ている母は、勤めのある日は遅くまで帰ってこない。
父親の帰宅はさらに遅かった。
ここには机があり本棚があり、そして男の使うベッドがある。
今は階下に母親の姿があるから男もあまり無理はしてこない。
下着さえも脱がそうとしないで自分の欲望を鎮めることだけに執心した。
だが、明日は母の姿が消える。
この男とふたりだけで数時間を過ごすことになる。
あのベッドの上で裸にされるのだ。
大声で泣きたくなった。
それが恐怖からであったのか、それとも悲しさからであったのか、どちらの気持ちが大きかったのかは自分でもわからない。
絶望的な気持ちのまま部屋を出ようとした。
「あ、ミナ。」
呼ばれて振り返った。
「やっぱり、今夜一緒に風呂に入ろうか?」
まだ足りないらしい。
男の要求は日毎にエスカレートしている。
屈託のない笑みを向けていた。
この笑顔が、小さな頃からとても好きだった。
「うん・・・。」
ミナは、力ない笑いを返すと、階下に気付かれぬようにそっとドアを閉めた。