〈写真集・1412〉-8
「彼氏ってコト?そんなの面倒くさいから要らないし」
「お姉ちゃんて、いっつもそうだよねえ?亜季が〇×君カッコいいって言ってもさあ、無視するんだもん」
聞いたところでしょうがない“答え”というのも、こんなイベントには付き物である。
『将来の夢って何ですか?』
「うんとねえ…お仕事で貯めたお金でお家建ててねえ、お姉ちゃんと一緒に暮らすの」
「え〜?死ぬまで亜季と一緒なのぉ?そんなのやだね」
『ンクク……亜季ちゃんの夢なんてファンなら知ってて当たり前、常識中の常識じゃないか?これだから“にわかファン”は困る……クククッ』
(はいはい。常識常識っと……面倒くせえヤツだよホント……)
もう下らない質問タイムなどやめて、とっとと写真集を買ってサインと握手で終わらせたい……それが三人の本音であった。
『さあ、次の方で質問は終わりにしますね〜?』
(おう。早く終わらせろ、ババア)
もう飽きたと言わんばかりに、三人は姿勢を崩しだした。
首謀者は足をこれ見よがしに組み、小肥りオヤジは腹に食い込んだベルトの位置を変え、そして長髪男は両手を使って髪を掻き上げた。
『じゃあ……そこの貴方。一番早く席に着くくらい、愛ちゃんと亜季ちゃんのファンのようなので、最後の質問お願いします』
『ッ!?』
司会女性が指名したのは、なんと長髪男であった。
確かにある意味“熱烈”なファンではあるが、最後の最後に面倒極まりない男を指名してくれたものだ。
『クックック……真のファンの質問ってヤツを、今から聞かせてやるよ……』
(なんて顔をしてやがる……適当な質問して、とっとと終わらせろよ?頼むからよぉ……)
目をギラつかせてニヤリと笑うその顔は、もう自分しか見えていない時の顔であった。
首謀者も小肥りオヤジもそっぽを向き、関わりのない素振りを見せたが、耳まで真っ赤にしたその様は、誰が見ても関係者である。
『えー……ゴホン!亜季ちゃんは7才の時、〔でしゃばり女将のお節介事件簿〕で、野崎真美役でドラマデビューしましたよね?愛ちゃんは9才の時に〔恋愛宇宙人キュルキュル〕で、ヒロインのキュリラを演じてデビューしたと記憶してます。今の二人は役を演じるにあたり、デビュー当時とどの辺りが違いますか?』
前園姉妹は言うに及ばず、司会女性も客席のオヤジも、行き交う買い物客までも怪訝そうな顔をして、固まってしまっていた。