〈写真集・1412〉-3
『いいかい?耳をかっぽじって聞いてくれよ?場所はだね、〇×市の◇△団地の側にあるショッピングモールさ』
『し…ショッピン……』
首謀者と小肥りオヤジは呆気にとられ、しばし沈黙した。
普通、ジュニアアイドルの発表会や握手会といえば、小さなレコード店を借りきるか、何処かの“箱”を使うものである。
中村姉妹の時もレコード店であった訳で、当然前園姉妹のも“そうだ”と思い込んでいた二人には、あまりに意外な場所での開催であった。
『……なんだよ?だからショッピングモールのイベントホールにステージ組んで、そこで発表会やって、サイン貰って握手するんだよ』
二人の沈黙の意味を理解してない長髪男は、よく聞き取れてなかったのかと勘違いし、更に詳しく発表会の内容を教えた。
『……あのよ、ショッピングモールの中ってよ……他の客とか一杯居るんじゃねえか…?』
ボソリと首謀者は呟き、そして長髪男の顔をチラリと見た。
老若男女、いろんな人が買い物客として訪れる場所がショッピングモールである。
しかも施設の巨大さからしても、買い物客の数も100人や200人で収まるはずがない。
様々な人達が行き交う場所でステージを組み、おそらくは設置されたパイプ椅子に座って、幼い姉妹を見ているという光景……中学生や高校生の男子なら分かるが、そこにオヤジが座っているという〈画〉は、あまりにもキツい……というか、どんな目で見られてしまうかは、火を見るより明らかであろう……。
『なんか文句あるの?ふ〜ん……じゃあ来なくてイイよ。その代わり、愛ちゃんも亜季ちゃんも僕だけの物だ。君達には指一本触れさせないから』
ショッピングモールと聞いただけでテンションを下げた二人に、長髪男は不満を隠さなかった。
奥歯で噛み締めたスルメを引きちぎって、自棄になったようにビールを飲み干す。
『い、行かないなんて言ってないだろ?行くさ。もちろん行くさ、なあ?』
『う…うん!行く行く!行くに決まってるよぉ!』
長髪男の機嫌を損ねさせたら、本当に愛と亜季には触れられない事態になりかねない。
首謀者と小肥りオヤジは必死に取り繕い、誤魔化すようにカシューナッツを頬張って、ボリボリと喰った。
『そうだよね?前園姉妹の最後の仕事を見届けるって約束したもんね?』
『そうだよ、その通りだよ。俺達が行かないで誰が行くってんだよ?』
『ど、土曜日が楽しみだなあ……』
微妙な空気になりながらも、三人は仲良くビールを飲み、つまみを口に運んでは咀嚼した。
夜は更けていき、酔いも頃合いを越えて深まっていき……そして時間は過ぎていった……。