〈選ばれた姉妹〉-1
型遅れのミニバンは、夜の街を疾走した。
後部席には小肥りオヤジが座り、助手席には、今や首謀者の肩書きすら危うい目付きの悪いオヤジが乗っている。
そして運転席には、誰あろう“いけ好かない”長髪男の姿があった。
長髪男が引っ詰め髪の男から手渡された住所に車を走らせると、行き着いた先は胡散臭いスナックや妖しげな風俗店が、色とりどりなネオンを煌めかせていた。
そこは、いわゆる色物街であった。
簡単な地図を辿れば、目的地はソープランドの並ぶ路地の一番奥にある。
長髪男は書かれていた駐車場に止め、そして首謀者を先頭にして三人は歩き出した。
『お兄さん、若くてイイ娘が入ってるよ』
『70分で2万ぽっきり。絶対に損しないから入って入って!』
早速、呼び込みの男達が殺到し、三人は気圧されながら小さくなって歩く。
少女に対しては傲慢で傍若無人に振る舞うクセに、大の大人が相手となると顔すら上げられない。
弱い者にしか強く出られない、典型的な腰抜けの“屑”であることは、全く疑いようがない。
顔を下に向けたまま、ようやくにして目的地に着いた三人は、普通の一般客と同じように正面のドアから入る……そこには、あの引っ詰め髪の男がニコニコしながら待っていた。
『さあ、店長と会おうか』
入ってすぐ左側にカウンターがあり、夜にも関わらずサングラスを掛けた男が立っている。
その向かい側にはカーテンで仕切られた部屋があり、その中には“お呼び”が掛かるのを待っている客がいるはずだ。
歩き出した引っ詰め髪の男の背中についていくと、[関係者以外立ち入り禁止]との立て札の掛けられたカーテンの向こうに招かれた。
その先には長い廊下があり、十メートルほど先にドアがあった。
そのドアを開けると、こざっぱりとした事務室があり、一番奥のデスクに、白髪混じりの髪を七三に分けた、太った初老の男が座っていた。
『やあやあ君達かね。今回も可愛い娘を売ってくれて、ウチとしても大助かりだよ』
ニコリと笑ったのだが、力一杯に口角を上げたような笑顔は如何にも不自然で、今の台詞は社交辞令だというのが透けてみえる。
『そりゃあ可愛い娘しか興味ないからね。名ばかりのブスアイドルなんて、僕には不要なんだから』
人を人とも思わないような七三オヤジに負けず劣らず、長髪男も見え透いた世辞を「当たり前」とばかりに軽く受け流す。