まさかの反対勢力-1
ある国に、賛否両論の大統領がいた。
支持率は支持派と非支持派がほぼ互角という、何とも難しい状態だった。
大統領は何度も命を狙われ、その度に肝を潰していた。
そんなある日。
「大統領!」
「どうした」
一人の側近が慌てて大統領のもとへやって来た。
「ある科学者が大変な発明をしました!」
「ふむふむ…」
「なんでも、寿命・病気以外の生命の危機なら、どんな事でも回避できるそうです!」
「なんと!すぐにその科学者を呼べ!」
「畏まりました!」
こうして数時間後、その科学者が大統領のもとへ現れた。
「なんでも、素晴らしい発明をしと聞いたのだが」
「はい、大統領。事故から必ず回避できるチップを完成させました」
三十くらいの青年は得意げに説明を始めた。
「このチップを体内に埋め込んでいる限り、事故からの安全が保証できます」
「そのチップでか?」
青年の手に乗った黒い塊は、五ミリ角の正方形の形をしていた。
「はい。絶対です」
「………よし、さっそく埋め込んでくれ」
「畏まりました」
その後、すぐにチップを埋め込む手術が行われ、それは成功した。
「これで私は安全なわけだな」
「さようでございます」
「しかし、あんな小さな物で命が保証されるとは…」
大統領は、チップの埋め込まれた左腕を感心の目で見つめた。
「では、私はこれで」
科学者は、誰にも悟られない様にニヤリと口許を歪めた。
それから数ヵ月後、大統領が他国の大統領との食事会への移動の途中に射撃された。
車の窓ガラスに空いた弾丸の穴は、左右のドアに空いていた。
穴の位置的に、それは大統領の頭に当たっていた。
しかし、大統領の姿は瞬時に消えたという。
この事は国中に知れ渡ったが、誰も大統領がどこにいるかわからなかった。
あの科学者を除いて…
大統領が消えた事件の報道を見ながら、例の科学者が微笑していた。
「誰も発見できないだろよ。無人島へ飛ぶように作ったんだから」
そんなことをぼやきながら、反政府派のあの科学者はテレビを眺めていた。