【金澤麗】-2
「上がったよ。あ、パソコンついてる。もしかして仕事中だった?」
ここは、雪人さんが元々ひとりで住んでいた家らしいのだけど、結婚して引っ越した時、お互いのプライベートを邪魔しないようにと寝室を別々にした。
この部屋は元々彼も使っていなかったらしいから、ちょうどよかったのだという。
もちろん、お互いの仕事が忙しいからということもある。事実、寝室はわたしが仕事を持ち帰れば、仕事部屋に早変わりする。
「ううん、今日は仕事しないよ。ネットでも見ようかと思って」
「そうか。…あれ?これ何?」
わたしのパソコンの横にあるプリンターの上に、書類にまぎれていたものを指さしながら雪人さんはそれに近寄っていった。
「あっ」
わたしはそこに、何が置いてあるかを思い出して、恥ずかしくなった。
別に隠していたわけではないのだけど、そのまま、その上に書類や本やらを重ねてしまっていたのだ。
「AVじゃん」
雪人さんはそれを書類の間から取り出し、ニヤリ、と笑う。
「わ、わたしだって見るよ、こういうの!雪人さんだって見るでしょう?別に隠してたわけじゃなくて、そこに置いてただけで…」
「ネットとかで買うの?」
「うん…」
「これ、見せてよ。パソコンついてるし、少し一緒に見ない?どんなのか気になる」
「え?!い、いいけど…」
ちなみに、このAVは女教師ものだった。この主演の女優が以前テレビに出ていて、綺麗だなと思ってブログなどをチェックしたのが購入のきっかけだった。公式プロフィールだと、わたしより少し年上のようである。
「この女優さん、最近人気みたいだね。たまにテレビとか出てる気がする」
雪人さんも知っていたようで、わたしがDVDをセットしている最中そう言った。
わたしたちふたりは、ベッドに座り、デスクの上のパソコンをベッドから見えるように角度を変えて再生を始めた。
まず、その女教師が給湯室で自分のカップを洗っている際に、男性教師からお尻を撫でられるというシーンから始まる。
その男性教師にレイプされ、最後には生徒達にも輪姦されるというものだった。
雪人さんは途中早送りをしながら、AVに対してツッコミを入れて見ている。
「ヤラれてんのに胸の前で手寄せてて胸綺麗に見せたいんだね。さすがプロ」
など、わたしは毛頭思わなかったこと。わたしはくすくすと笑ってしまった。
「わたし、気づかなかった。確かに。でもおっぱい綺麗だよね」「麗のも綺麗だよ?」「きゃっ。も、やめてよ!」
わたしの胸の下辺りを、雪人さんがきゅっとつまむ。下着越しでも、感じてしまいそう。
ただ、こういう遊びのようなやりとりは…今までほとんどしてこなかったかもしれない。
わたしと雪人さんは何度となく体を重ねてきたけど、ビジネスパートナーとしてもお互いを認識しているから、ピリピリした空気をお互いが醸し出していたかもしれない。
一緒にテレビを見たり、どこかに出かけたり、普通のカップルなら当たり前のことを何度しただろうか?
一緒に住み出してからも、お互いに気を遣って、すぐ部屋に入って、別々の行動をして…わたしは彼のことを知った気でいたけど、本当は全然何も知らないんじゃないだろうか?
そして、今気づいたけど…わたしが社長室で強引に抱かれることを望んでいるのは、彼がわたしに対して気を遣いすぎて欲しくないということなのでは…?
わたしはあなたになら、多少強引にされても許してしまうのに。
あなたがこんなにわたしをいやらしくしてしまったのに。