〜 音楽その1 〜-6
パチパチパチ……。
「「……!」」
パチパチパチパチッ。
【B2番】先輩が拍手をして、慌てて私と22番さんも手を叩きます。 音自体は、確かに間が抜けていたかもしれません。 不細工だし、無様な姿勢での放屁に基づく音色です。 それでも私達が素直に拍手できたのは、パンパンに膨らんだお腹でオナラをコントロールすることがどれ程難しいか、自分の体で学んでいるからです。 先輩の肛門は立派な御手本を見せて、いや、聞かせてくれました。
【B29番】先輩は『ホイッスル』をお尻から離して起きあがります。 どこか罰が悪そうでした。
「さっきの拍手、なによあれ……もう。 かなり微妙で、勘弁してって感じ」
「え〜。 だって『にっく』が上手だから〜」
「もともと褒められて嬉しい分野じゃないし。 ついからかわれてるような気になるっていうか。 悪気がないのは分かるんだけどね?」
「そんなつもりないですって〜」
「う〜……ま、いいや。 よくやる失敗っていったら、一番多いのが音が切れずに間延びしちゃうミス。 笛を抜いてエイナスを締めて、ピッ、ていう短い音にしなきゃダメなの。 挿したままで必死こいて締めたって、どうしても空気が漏れるから、ピ〜ってなる。 そしたら最初からやり直し」
サラリと重大な情報を教えてくれました。 ピッ、にするのも一筋縄ではいかなそうです。
「それと〜ウンチも怖いですよ〜。 オナラだけじゃ我慢できなくて、身を漏らしちゃうコも結構いるんです〜。 臭くなっちゃうし、恥ずかしいし、気をつけましょう〜」
横から【B2番】先輩が小声で教えてくれます。 これは、先輩のお手本を見ながら私も思ったことでした。 残り少ない空気を搾りだそうとすれば、どうしても内包した排泄物が込みあげます。 ということは、そうならないためにも、多めに空気をいれた方が都合よさそうです。 もし仮に空気が余ったとしても、その場でスカして放屁すれば済む話――
「最後に〜三々七拍子が終わってもお腹に残った空気ですけど〜授業が終わるまで我慢してください〜」
――じゃないみたいです。
「音楽の時間は〜楽器以外の音がご法度です〜。 オナラの破裂音も、ぷす〜っていうのも、お喋りも咳もくしゃみもみんな、指導の対象になっちゃいます〜。 残ったオナラは、チャイムが鳴って、廊下にでてから出したらいいですよ〜」
私語がダメなのはいいとして、生理現象に伴う音も認められないなんて、知りませんでした。 厳粛を旨とする式典場面ならいざ知らず、授業中というだけでそこまで厳しくするんですね。 さすが音楽の授業、『音を楽しむ』どころか『音が苦(おんがく)』になりそうです……。
「じゃ、まず2番からやってみて」
【B29番】先輩が、黒褐色のシミがついたホイッスルとガラス製シリンダーを私に渡します。 シミの正体は言わずもがな、さっきまで挿さっていた【B29番】先輩のアレでしょう。
「はい。 宜しくお願いします」
私はホイッスルを一度口に含み、舌で表面を磨きました。 苦いようなしょっぱいような、学園に入学して何度も経験したいつもの味でした。
「……」
ガラス製シリンダーに空気を入れます。
オケツの穴で楽器を奏でるという、この行為がもつ異常さには、今更どうとも思いません。 空気浣腸をして、ピピッとオケツの穴を締めて、オナラで笛を吹くしかないんです。
「ふぅ〜……」
一度大きく深呼吸。 先輩と同じで、私も3Lを空気浣腸するつもりです。 肺の空気を抜いたところで腸の容積が変化するとは思えませんが、気持ちを落ち着ける意味でも、浣腸前には息を整えることにしています。
「ん……」
満タンになったシリンダーを構えます。 先端のノズルは先輩の腸液が絡み、テカテカと濡れていて、私の固いオケツの穴でも、ちゅるりと自然に咥えることができました。