カピバラの恋-2
そんな時、ふと過ぎる茜の顔。
アイツが連絡を寄越さないのは、クリスマスに向けて、彼氏作りに躍起になっているからだろう。
カピバラのくせに、乙女な所のある茜にとって、クリスマスはすごく大事なイベントなのだ。
そんな一大イベントは彼氏と過ごすもの、と考えている茜は、毎年クリスマスを一緒に過ごすお相手を探すため、いつも以上に合コン三昧の日々に勤しんでいた。
まあ、それも全て実のならない結果に終わるオチになっているのは、お約束なんだけども。
と、言うことは。
当然茜は俺の所にまた愚痴りにくるのだ。それが例えクリスマスの日であっても。
俺はそういうイベントに全く興味が無いから、茜がクリスマスに突撃しても全然問題がないからいいんだが、その日ばかりは茜の手土産がゴージャスなんだよなあ。
反射的に生唾が込み上げてきて、それをゴクリと飲み込んだ。
必ずケーキを持参(しかも、チョイスするケーキがまた美味いんだ)。そして、俺なら絶対買わないような、高いシャンパンを用意してくれて。
本来ならば、その時に過ごす彼氏のために用意しているものらしいのだが、相手不在のため、結局俺がゴチになるってわけだ。
おこぼれとは言え、美味いケーキ、高いシャンパンをごちそうしてもらうと、こちらだっていくら幼馴染とは言え、気が引ける。
だから、ちょっとした料理くらいは用意してやるのだ。
ターキーとかそういうのはガラじゃないから、鶏の唐揚げをドッサリ作って、ちょっとしたサラダとか、あとは酒のつまみとか。
俺が作る唐揚げは、にんにくがたっぷり入ってるから、二人で食って、やたらにんにく臭くなって。
そんなクリスマスを毎年過ごしていたことを、ぼんやり思った。
どうせ、今年も茜と過ごすんだろうな。
街に出るとカップルばかりだから、二人で酔っ払って、明石家サンタを見る、そんなクリスマスを。
そんなことを思っていると、ふと目に入った焼肉屋。
普段なら絶対行かないようなちょっと高い店構えに、腹の虫がギュウ、と鳴く。
もともと美味いものを食って帰るつもりで、駅とは反対方向に歩いてきた俺だった。
たまには思い切った贅沢でもしてみようか。
今日は平日だから、そんなに待たなくても入れるだろう。
そう思いながら、スーツのポケットからスマホを取り出した。