カピバラの来襲-2
……くっそ、可愛いじゃねえか!
って思うのは声のみだ。
コイツは昔からカラオケが得意で、歌だけじゃなくモノマネも、ものすごく上手い。
よく、ものまねタレントが真似するネタなんかは一通りこなせるし、俺が敬愛してやまない長渕剛のモノマネだって、目を閉じると、まるで長渕がそこにいると錯覚するくらいのレベルなのだ。
そんな茜だから、可愛い声を出すのはお手のもの。
ワガママをいう時は、大概この声色を使うのだ。
この声を聞くと、正直なんでも言うことを聞いてしまいそうになる……のだが。
「お願い、元気。今日泊まっていってもいい?」
ずいっと目の前に茜の顔が現れると、正気に戻る。
そう、コイツはすげえ可愛い声を出せるのだが、なにせ顔がブ……並よりやや下レベルの女。
よって、俺は。
「却下」
と、部屋に引っ込むのであった。
◇ ◇ ◇
「……また婚活失敗したのか」
ソファーに座って大人しくなった茜に、少し迷った末、缶ビールを渡してやる。
酔ったコイツにこれ以上酒を飲ませたくなかったけれど、どうせ勝手に冷蔵庫開けられるだろうから、先手を打った。
ビールを隠していることを咎められるとウザいからだ。
「…………」
茜は無言で頷くと、俺から缶ビールをひったくり、そして、プシュ、とプルタブを開けて一気に喉に流し込む。
あーあ、俺の楽しみが……。
なんだかんだで家に入れてしまうし、ビールは差し出してしまうし。
結局、俺は茜に甘いんだよなあ。
ゴキュゴキュと豪快な音を立てながら、おそらく一気にビールを飲み干してしまった彼女は、男らしく息をぷはあっと吐いて、ゲップまでしてくれた。
おう、すげえ男前だ。
俺より男らしく酒を飲める茜は、空になった缶をグシャリと握りつぶしてから、
「……体重55キロを過ぎている女は生理的に受け付けないんだって」
と、ドスのきいた声でそう呟くのだった。