もっとカゲキに愛して-4
前の彼氏と別れたときは、男の好みに合わせて服装なんかを変える女なんてださい──なんて暴言をリョーコさんのバーで吐いていたくらいなのに。
「俺、ずっと真緒を手に入れたかった。でも俺は真緒の上司だから、下手に手を出して気まずくなるのは避けたかったし、真緒のこころを乱すようなことはしたくなかった。でも、新年会のときに軽く酔って頬をピンクに染めてる真緒を見てさ……今まで我慢してきたものがぜんぶどっかに飛んでいった。ここで俺のものにしておかないと、一生俺のものにはならないんじゃないかって思った。上司だとか、そういうのはどうでもよくなった。真緒を俺のものにしたいって、それだけしか頭になかった」
彼の瞳にわたしがうつっている。
こんなに近い距離で、彼の告白を聞いている──。
失神してしまうんじゃないかと思った。
熱が出たときのようなふわふわとした気持ちになった。
「わたし……幸せです。ずっと緒方さんに憧れていました。緒方さん好みの女の子になろうとボブにしたんです。ちょっとでも緒方さんに近づきたくて……ちょっとでも気に入ってもらいたくて……。聡にあざといなあって笑われても、わたし、緒方さんに一瞬でも女として見てもらえるなら何だってしたいって──あの、恥ずかしいんですけど、ずっとそう思っていたんです……」
憧れの上司。
憧れの緒方さん。イケメンでハイスペックで、みんなが噂するひと。
わたしみたいな、どこにでもいるような女の子なんか彼が相手にするわけない。
ずっとそう思っていた。でも、それでもちょっとでもわたしを見てくれるなら──って、そう思っていた。
男に気に入られるために綺麗になろうと思うなんて馬鹿な女ねって、リョーコさんに言われたこともある。
でもリョーコさんはそのあと、あんたって可愛い女ね、とも言っていた。馬鹿で可愛いあんたは、いつか幸せにならないとダメよ、とも。
「そっか、俺らずっと両思いだったんだね。でもきっと、俺のほうが先に真緒を好きになってる」
「え?」
「真緒が入社してきた日からって言っただろ? 真緒は忘れているかもしれないけどさ、その日真緒が帰るときにエレベーターにふたりっきりになれるようにしたんだよ、俺。他の新入社員の子たちを先に帰して、真緒に頼みものしてさぁ。優しくていい上司だって思われたくてさ、エレベーターに乗ってからとにかくこころに響きそうな言葉をいっぱい並べ立てた。今考えると馬鹿みたいで笑えるけどね」
「わっわたし、覚えてます。だって、だってわたし──そのときから、緒方さんのことが……好きだったんですもん……」
わたしたちは見つめあったまま、ぷっと吹き出した。
わたしはまんまと緒方さんの策略にハマり、そして彼はわたしと同じように相手に気に入られるために振る舞っていた。
誰かに気に入ってもらいたいとき、ひとは同じような行動に出るのかな──なんて笑いながら言う。
笑うたびに、チェーンがカシャカシャと鳴った。
「あ、そういえば。今思い出したんだけどさあ、真緒の太ももの付け根のほくろ、聡くんも知ってるって言ってたよなあ。俺だけじゃないじゃん」
「えっ、あ──……でも、聡はほんと、きょうだいみたいな感じですから」
「まぁ聡くんは真緒のイキ顔は見たことないもんね」
「もちろん、ないですよ」
「聡くん、今彼女いないんだよね? モテそうなのに。理想が高いのかな?」
「……うーん、そんな感じ、ですかね」
「聡くんってほんと可愛いよね。俺、聡くんなら抱けるかも」
「えっ、──えぇっ!?」
「冗談だよ。俺が抱くのは真緒だけ。これからずっとね」
「よかったです。……んっ、ぁんっ」
彼が下半身を押し付けながら、チェーンを引っ張った。
ショーツ越しに硬いものが上下する。