もっとカゲキに愛して-3
「あぁやっぱり。よく似合っている」
満足そうに微笑む彼に見下ろされながら、わたしは妙な気持ちになってきた。
きゅっと締まった冷たいレザーの首輪。
真ん中のバラのモチーフがついているシルバーの輪に、彼がチェーンを取り付けた。
ガシャガシャと冷たい音がした。
「これでどこにも逃げられない」
ぞくりとした。怖いわけではない。
何か──身体の奥底から這い上がってくるような感覚。
無意識に膝と膝を擦り合わせる。
彼がチェーンを左手に巻き付けるようにして引っ張った。
首が『持っていかれる』ように引っ張られる。
彼が鎖骨あたりにキスマークをつけていった。短い声が出る。
「真緒は──俺のもの。俺だけのものだからね」
彼がチェーンを引っ張る方向に首が持っていかれる。
仰け反り、操られるように首から身体が動いていく。
また中学生の頃みんなでまわし読んだ少女漫画が頭に浮かんだ。
イケメン上司との、ジェットコースターのような恋愛の話。
主人公はその上司との恋愛によって成長し、女として少しずつ熟していく。そして、どんどんと彼にのめり込んでいく──。
その漫画はどんなふうにラストを迎えたんだったかしら。
十巻ほどコミックスが出ていて、すべてをみんなで読んだはず。
タイトルも忘れてしまった。『大人の恋愛』を垣間見たようで、刺激的で──みんなで夢中になって読んでいた。
同じクラスの男子たちって、ほんとうにガキっぽいよねぇなんて言いながら。
そういえば、新年の挨拶メールに中学生のときのクラス長が今年は集まりたいって言っていたと書いて送ってきた子がいたっけ。
二十五歳を目前にして、キリがいいから集まらないか、と。
中学生のときのクラスメイトたちみんなと最後に会ったのは成人式だった。
あの頃はまだ、わたしは前の彼氏と付き合っていた。
まさかその後大学を卒業し、入社した会社の一番のイケメンと付き合うことになっただなんて、そのときは夢にも思っていなかった。
誰もが認める格好良さ。
優しくて頭の回転が速くて、ひとの美点を見つける力に長けているひと。
ちょっと強引で、簡単にわたしを彼のペースに巻き込んでしまう──。
「緒方さん──わたし……わたし、緒方さんがいないと生きていけなくなっちゃうかも……しれないです……」
わたしの胸元に舌を這わせていた彼が、起き上がってわたしを見下ろした。
目が合う。
乾燥した唇を湿らせるように、彼がぺろりと舌先で唇を舐めた。
「そうだろうね。俺、そうなるようにしてるから。真緒が今まで経験したことのないセックスを繰り返して、少しずつ俺好みの性癖になるように仕向けてるから。人間って慣れる生き物だからね。最初は恥ずかしくてたまらなくても、だんだんとふつうになってくる。俺とヤってる内容が真緒の中でふつうになる。そうすると今度は、中途半端なものじゃ物足りなくなってくる。人間の三大欲求ってさ、食欲と睡眠欲と性欲だろ? 真緒の身体をすっかり俺のものにしてしまったら、もう俺から逃れることはできなくなる。こころはすでにもう俺のものだって、わかってるからね」
自信満々なくちぶり。
でも、悔しいことにその通りなのだから反論すらできない。
興味を持っていただけのネイルは、今はもう彼に見てもらうために彩るものになっていた。
彼の好みに合いそうな柄をネイリストさんと話し合って彩ってもらう。
それが趣味になっていた。髪型も、彼好みの長さのボブをずっとキープしている。