投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

カゲキに愛して。
【女性向け 官能小説】

カゲキに愛して。の最初へ カゲキに愛して。 18 カゲキに愛して。 20 カゲキに愛して。の最後へ

ライバル-1

 結局、昨日は色々考えすぎて一睡もできなかった。

 聡は否定していたけれど、絶対あの目は緒方さんに見惚れていた。
 しかも、緒方さんにきちんと説明ができないまま別れてしまったから、もしかしたら誤解をされてしまっているかもしれない。今朝のおはようメールもいつも通り、彼らしい内容だったけれど……。

 資料を手にエレベーターに乗る。
 上のフロアに渡してきてと頼まれたものだった。『閉』のボタンを押そうとした瞬間、外側からエレベーターのドアを手でとめて入ってきたひとがいた。

「あっ……」

 ドアが閉まる。
 緒方さんがわたしを壁際に追い詰め、壁を背にしたわたしの脇に左手を突いた。

「昨日の男とはほんとうに何もないんだな?」
「えっ……」
「過去に付き合ったことも?」
「なっ、ないです。ほんとうにただの幼馴染です。弟みたいなものです」

 吐息がかかるほどの距離。見つめられた瞳が揺れる。
 心臓が爆発しそうなほどの勢いで高鳴った。こんなところで、こんなに接近してしまったら──。

「今晩、俺の家に来い。これで先に入って待っていて」

 そう言って、緒方さんがわたしの手に冷たく光る鍵を握らせた。

 合鍵だ──。
 そう思った瞬間、嵐のように唇を奪われる。
 全身から力が抜けてしまいそうだった。

 エレベーターが着くと同時に彼が離れる。乱れた呼吸を整えるように息を深く吸い、彼に会釈をして鍵をポケットにしまいながらエレベーターを出た。
 彼の言葉が耳に残った。



 合鍵。
 こころが弾むような響き。
 ガチャリと鍵を開け、彼の自宅にそっと足を踏み入れる。
 ほのかに紅茶のような香りがした。
 ルームフレグランス、変えたのかな?

 シンと静まり返った部屋。
 パチリと電気をつけ、くるりと辺りを見まわす。先日来たときと変わらない。

 エアコンをつけ、マフラーを取りコートを脱いでコートスタンドに掛けておく。
 ソファにでも座って待っていようかと思ったところで、ドアがガチャリと開いた。

「あ、おかえりなさい。早かったんですね、わたしもさっき着いたところで──」

 言い終わらないうちに、わたしは緒方さんの腕の中にいた。

「緒方さん……?」

 彼は何も言わず離れると、コートとテーラードジャケットを脱いでコートスタンドに掛けた。
 広い背中に思わず見惚れる。

「……ごめん。俺、こんなに妬いたことって今までになくて、イライラして真緒に八つ当たりしてしまった。ほんとうにごめん」

 彼がわたしに背中を向けたまま言った。
 八つ当たり?
 全然、そんなふうには思わなかった。
 それどころか、ヤキモチを妬いてくれたなんて──。

「嬉しい……です。わたし、自分がヤキモチを妬くことはあっても、妬いてもらうことなんて絶対ないと思っていたので……」
「何言ってんだよ。あんな──仲良さそうにしているところを見たら、妬くに決まってるだろ。俺とは正反対な雰囲気の男だったし、真緒はほんとうはあぁいう雰囲気の男が好きなんじゃないかとか……」
「わたし……、聡みたいな雰囲気の男の子はタイプじゃないです。緒方さんが好みのタイプです」

 くすぐったいような気持ちになった。
 まさか、緒方さんが聡を見てそんなふうに思うなんて。

 彼がくるりとこちらを向くと、わたしを引き寄せるようにして抱きしめた。
 すっぽりと腕の中に入り込む。彼の鼓動が聞こえた。

「昨日はイライラして眠れなかった。男とふたりで会って、何してたんだって電話しそうになった。幼馴染だって言っても、相手は男だろ?」
「ごめんなさい……。でも、ほんとうに聡とは愚痴を言い合ったり相談しあったり……女の子の友達と同じような付き合い方しかしていないんです。それに──」


カゲキに愛して。の最初へ カゲキに愛して。 18 カゲキに愛して。 20 カゲキに愛して。の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前