ライバル-5
頭の中が真っ白になる。
わたしの奥深くに突き込んだ緒方さんが、かすれたような声をあげて白濁した液体をドンッと吐き出した。
「週末、真緒の家にお邪魔するじゃん? そのあと晩飯を聡くんを交えて三人で食べに行かない?」
いつもの通りにサインペンで書かれた『正』を写メにおさめ、わたしを拘束していたものを丁寧に外しながら緒方さんが言った。
「あ、はい……伝えておきます」
「うん。昨日はほんと、真緒の幼馴染が俺のライバルになるのかーって思ってたんだけど、とりあえず違うみたいでホッとしたよ。幼馴染なんて、お互いのことを知りすぎていて他人の入る隙間もなさそうじゃん」
「家族みたいなものですよ」
それに、ライバル関係になるのは、もしかしたら聡とわたしかもしれないけどね──とこころの中で付け足した。
「きつく縛って、ごめんね。痛かったかな、やっぱり」
「あ、いえ……大丈夫です」
「でも、燃えた。俺、こういうことをするのって好き」
「そ、そうなんですね……」
手脚が自由になる。
シャワーを浴びようとふたりでベッドから降りたところで、ふとテレビ台に並んでいるDVDが目に入った。
邦画や洋画のDVDの隣、一番右端に、背表紙に豊満な胸元を強調するようなドレスを着た女性の写真と、タイトルが書かれたDVDが並んでいる。
「あっ……目に入った?」
緒方さんが、いたずらがばれた中学生みたいな声で言った。
「廣瀬ユキのDVD。──真緒、廣瀬ユキって知らなかったっけ」
「どなたでしたっけ……? アイドルとかですか?」
「この間、新年会のときにちょこっと話したやつね。真緒と廣瀬ユキって、なんとなく顔つきが似てるなあって思って」
そう言って、彼がDVDを取りに行く。
DVDを持っているくらいだから、その廣瀬ユキというアイドル(?)のファンなんだろうな。意外だわ──。
「これなんだけどさぁ」
目の前に出されたDVDのジャケットの過激さに、思わずわたしは小さく声をあげてしまった。
それはいわゆる、アダルトDVDというジャンルのものだった。
それも、縄でしばられた女性がアップに写っている──。
「あ、やっぱ引いた? ごめんごめん。でも俺、この一枚しか持ってないから。それより、この子、真緒に似てると思わない?」
「いや……なんかもう、激しくて、よくわかんないです……」
「そう? この子もちょっと三白眼気味じゃない? 髪型を真緒みたいにボブにしたらもっと似てると思うんだけどなあ」
廣瀬ユキ──というセクシー女優さんは、アッシュブラウンのゆるくウェーブのかかったロングヘアをしていた。
胸元が大きく開いた、まるで結婚式のお色直しの際に着るような桃色のカラードレスが縄で縛られていて、胸元がさらに強調されている。
タイトルは──『結婚式の二次会で花嫁を縛って陵辱しちゃった件』……なんっじゃそりゃぁぁぁあー!
「まぁもうコレ、いらないし捨てちゃってもいいんだけどね」
「は、はぁ……」
まぁ……緒方さんも健康な独身の男性。
そういうDVDの一枚くらい……持っててもおかしくない……よね。
わたしは顔が引きつらないように気をつけながら、とりあえずシャワーを浴びましょうと言った。彼はそうだねと言って、DVDをテーブルに置いてわたしの腰に手をまわした。
緒方さんって、女性を縄で縛ったり首輪をつけさせたりすることに興味があるのかしら……。