ライバル-2
言うべきかどうか迷って言い淀む。
勝手に聡のプライバシーに関わるようなことをくちにするのは気がとがめる。今まで、わたしは誰かに聡の秘密を言ったことは一度もなかった。
それに、とわたしは言い直した。聡には好きなひとがいますから、と続けた。ずっと相談をされているんです、とも。
「そっか……。疑ってごめん」
「いえ、わたしのほうこそきちんと説明をしておくべきでした。ごめんなさい」
緒方さんがわたしの髪を乱しながらキスをする。ねっとりと絡みつくようなキス。
吐息が洩れる。身体がジンと熱くなった。
「イライラした分、なんだかすごく真緒のことをいじめたくなってきた。とりあえず、拘束したい」
「えっ、どうしたんですか、急に……」
「真緒を何もできない状態にして、攻めて喘がせて何度もイカしたい。真緒が泣くまでヤリたい」
「えっ、ちょ……」
「ダメかな」
虹彩までしっかりと見える距離。吐息がかかる。彼が軽く曲げた片膝をわたしの脚の間に割り込ませた。
胸が高鳴る。思わず引いた腰を、彼の腕が押しとどめた。
「えっと……あぁ……うぅ、だ──大丈夫です……緒方さんの好きにして……ください」
負けた、と思った。どんなに恥ずかしく思って拒もうとしても、わたしはこのひとには敵わない。
緒方さんがくちの端だけで笑いながら、しゅるりとネクタイを外した。そのネクタイでわたしの手首をぐるりと縛り上げる。
よろけそうになったところを抱きかかえられ、そのままベッドに押し倒された。
「ちょっと待っててね」
そう言うと、彼はベッドから離れていった。
スカートの乱れを少しでも整えようと、腰の位置を変えてみる。
深いグリーンのAラインフレアスカートは思い通りには整ってくれなかった。
予想よりもネクタイの結び目は固く、手首を少し動かしただけではビクともしない。
古紙古布のゴミの日に、雑誌をまとめて紐で括るときに是非お願いしたい、なんてどうでもいいことを思ってしまった。
「とりあえずそのタイツと下着を取っ払うね」
戻ってきた緒方さんがそう言うと、わたしのスカートの中に両手を入れて、黒タイツとショーツを勢いよくまとめて引きずり下ろした。
「きゃっ……」
M字に開脚させられ、膝の下あたりと太ももを梱包用の黒い布テープでぐるぐると巻かれ、固定される。
戸惑う余裕すら与えられない。
ふかふかのベッドの上で両手首を頭の上で縛られ、開脚したまま固定されるという、まるで男性向けの漫画にでも出てきそうなポーズに頬が燃えるように熱くなった。
「いい眺め。せっかくだから、落書きもしちゃおうかなぁー」
そう言って、緒方さんがわたしの太ももの付け根にサインペンで文字を書いていった。
「あっ……あぁぁ、見ないで……」
彼の目の前に秘部を晒している。羞恥心で頭がおかしくなりそうだった。
ペン先が肌を擦るたび、身体が震えるような感覚が下半身から全身へと広がっていった。
「よし、いい感じ。あぁ、すごくいい眺めだよ、マジで。写メ撮りたい」
「や……だめ……」
「真緒、好きにしていいって言ったじゃん? 撮っても俺ひとりが楽しむだけだよ。第一、俺以外に見ていいやつなんていないし」
「でも……」
「じゃあ、デジカメならいい? 俺以外が触ることないし、SDカードも別にするからさぁ」
「……」
緒方さんが身を乗り出してわたしと目を合わせる。
ずるい。ずるすぎるよ……。
こうやって見つめられると絶対に断れないことを知っているくせに。
「……わかりました」
「やった。デジカメ、取ってくる」
あぁ……こんな格好、わたし、今までしたことがない。手も脚も自由がきかないなんて──。
恥ずかしいのに、隠したいのに、どうしようもなく身体が疼く。潤っていく。
「撮るよー」