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カゲキに愛して。
【女性向け 官能小説】

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社内恋愛-7

「リョーコさんは誰かにチョコレートを贈るの?」
「あいにく、アタシはバレンタインもこのお店にいるので自分は関係なしよ。お客さんのキューピッドにならなきゃいけないから、大忙しなの」
「あっ、そっか。やっぱりキッス・イン・ザ・ダークとか、よく出るの?」
「そうね。あれは名前もロマンチックな上に深い紅色が綺麗だし、ほんのりとした甘さと香りが人気のカクテルだからね、やっぱりよく出るわ。意外とアルコール度数が高いから、相手を落としたい側があえて頼んで飲ませる場合もあるわね」
「へぇー、バレンタイン向きのカクテルなんだね」

 酔った勢いで──なんて、身に覚えがありすぎてなんだか耳が痛い。
 でも。大人同士の恋愛は、学生時代の勢いがない分テクニックやスパイスが勇気をくれる場合もある──だろうしね!
 なーんて、自分を自分で納得させちゃう。
 結果的に幸せにまとまっていればいいのよ、ね。

「あんた、その上司を連れてきなさいよ。是非お目にかかりたいわ」
「えーっ、いやよ。お客さんみんなが緒方さんを好きになっちゃったらどうするのよ」
「アタシがいただくから大丈夫よ」
「ぜえぇぇったい、イヤ!」
「ケチねぇ」

 横で聡がくつくつと笑っている。
 わたしはイチジクのドライフルーツをワシッと噛みちぎると、聡はどうなのよと肘で突きながら聞いた。

「今のところ、さっぱり。声をかけてくれるのは女の子ばっかりだからなぁ。ありがたいことだけど。悠介さんはいつの間にか俺よりふたつ年上の男と付き合いだしてたしなあー。悔しいことに、俺と反対のタイプらしくってさぁ。筋肉隆々の男なんだって。あーぁ、やっぱり俺も鍛えようかな」
「筋肉っていいよね。緒方さんも鍛えてるから、鍛えてるひとの身体ってほんとうに綺麗だなあって思う」

 彼の厚い胸板やたくましい二の腕を思い出す。
 あの腕に抱かれると、わたし、一瞬で蕩けそうになってしまう。

 あぁ早くまた会いたい。職場ではなく、彼の家で──。

 緒方さんの家に伺うたびに、より一層自分が彼の恋人であることを確信する。確信するって、変な言い方になっちゃうけれど、ほんとうにそう思うの。
 わたしは彼の恋人。そう自分に言い聞かせないと、いまだに信じられないくらいなんだもん──。

 中学生の頃にクラスのみんなでまわし読んだ少女漫画を思い出す。上司との恋愛の話。主人公はちょっとドジでおっちょこちょいな、平凡な女の子。
 ちょうど、今のわたしくらいの年齢の……。
 イケメンな上司に迫られて、ジェットコースターみたいな恋愛をする話だった。その主人公のセリフを、今のわたしもちょうど同じように思っていた。『今までの不幸をかき集めたって、足りないくらいの幸福をわたしは今味わっている』──。

 そういえば、緒方さん、おなかまわりを気にしだした名取さんを自分のジムに通わないかって誘っていたっけ。
 最近、鍛えることが流行っているのかしら?

「いいわよねぇ、筋肉。アタシも綺麗な筋肉って大好き。キュンキュンしちゃうわよねぇ。こう、後ろからぎゅってされたときの腕の筋肉! 筋張ってて超かっこいいやつ、最高よねえ」
「あ、それすごくよくわかる。リョーコさん、わかってるなぁ」
「あったり前じゃない! あ〜ぁ、アタシを後ろからぎゅってしてくれるイイ男、いないかしらねえ」
「リョーコさんを後ろからぎゅってしようと思ったら、身長は絶対百八十以上ないといけないからハードル高そう」
「アタシが座ってたらいいじゃないのよっ」
「あっ、そっか」

 ここはいつだって笑いが絶えない場所だ。
 何か落ち込むことがあったとしても、ここに来れば自然と笑顔になれる。
 リョーコさんはお日さまみたいなひとだと思った。たまに暑苦しいけど、いっしょにいると元気になれる。


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