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カゲキに愛して。
【女性向け 官能小説】

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きっかけ-8

 あぁ、なんて大人なひとなんだろう。
 わたしが付き合ってきたどんなひとよりも真面目で輝いている。

「じゃ、真緒が飲んでる間に俺は写メを撮ろうっと」

 ちょっと変態だけど(笑)

 ほんとうは、ちょっとだけ残念だなって思っちゃった。このままお泊まりしちゃえば、もっともっと緒方さんとくっついていられたのになあって。
 オシャレなバスルームで熱いシャワーを浴びながら、自分で自分に赤面する。えっちなこと、考えちゃった。まだ、酔いが残ってるみたい。

 あぁ、ほんとうに幸せ。
 思い切ってお誘いに乗ってよかった。
『夢なら覚めないで』って、こういう気持ちのときにみんな思うんだなあ。

 胸の奥のほうがふつふつと熱くなる。彼の笑顔を思い浮かべるだけで、自然と口角があがってしまう。

 今ならなんだってできるような気がした。
 林檎の皮を包丁で超極薄にむけそうな気がするし、アッツアツのラーメンだって一気食いできそうだし(品がないかしら)わんこそばだって──って、食べもののことばっかり……。はしたない。こんなことじゃ、緒方さんに呆れられちゃう。

 わたし、思わずぐっと拳を握って、女子力を高めることを自分に誓っちゃった。
 大好きな彼に、もっともっと大好きになってもらうんだ──!


***


「それでねっ、もう超ぉぉぉかっこよくて! もう笑顔なんかほんとうにやばいの、きゅんきゅんして死にそうになっちゃう!」

 わたし、そう言って、くーっとグラスを空ける。
 カウンターの向こうにいるリョーコさんが、いい飲みっぷりと拍手をして言った。

 緒方さんと愛を交わした翌日の夜。
 わたしは幼馴染で親友の聡といっしょに通いのバーへ飲みに来ていた。

 バーと言っても、緒方さんといっしょに行ったオシャレなバーとは違う、いわゆるゲイバー。(いわゆるも何もないか)
 どうしてゲイバーが通いのバーかと言うと……。

「もう。真緒ちゃんってば、今日そればっかり」

 隣に座った聡がため息まじりに言った。
 たれ目がちの大きなふたえに、ぷくりとした涙袋、くるんとカールした睫毛がキュートな聡と並ぶと、まるでわたしが彼の姉貴分みたいだといつもリョーコさんに言われる。(聡のほうが、三ヶ月ほど誕生日が先にくるんだけど!)

 色白に丸顔、天然ゆるウェーブの髪はオレンジブラウンの甘めマッシュ。美容師をしている聡には、お客さんの中にファンだっている。それくらい目立つ、可愛い系イケメンなんだけど──彼の恋愛対象は、なんと男!

 コレをカミングアウトされたのは、中学二年の晩秋だった。びっくりしたけれど、男女問わず友達の多い聡が誰にも打ち明けられずに秘かに悩んでいたことを知って、わたしは彼を愛しくてたまらなく感じたんだっけ──。

 年の離れたお兄さんがいる聡は、お兄さんよりひとりっ子のわたしといつもいっしょにいた。わたしたちはきょうだいのように育った。毎日暗くなるまでいっしょに遊んだ。

 そんな聡の悩みに、わたしはいつだって真剣に向き合ってきた。
 そして彼もまた、わたしの悩みや愚痴にいつもたくさんの時間をかけて付き合ってくれた。

 二十歳を超えてから、わたしたちの語らいは彼が見つけてきたこのお店で行われることが多くなった。

「そんなにいい男なら、是非アタシも見てみたいわね」

 リョーコさんがぽってりとした唇を大きく吊り上げて言った。
 リョーコさんももちろん聡と同じくゲイ。

 元はダンサーをしていたらしく、姿勢が良く、白シャツがとてもよく似合っていた。
 黒髪のツーブロックに、色っぽさをも感じさせる流し目。いつだったか、お店に向かう途中に逆ナンされたときに「アタシ、女には興味ないのよ」と言い放ったことがあると言っていたくらい、ハキハキとしていてさばけたところのあるひとだった。

「やぁだ、リョーコさんにとられたくないもーん」


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